今回のお題は、日本のメディアの大好きな『スポ根/ハングリー信仰』がいかに格闘技のイメージを低下させているか、です。
日本のスポーツ新聞や、テレビのニュースや、ネットのスポーツ記事でもそうですが、共通するのは情緒的で、理性よりも感情に訴えようとする体質です。
QRは世界の情報を知りたくて韓国のスポーツ記事とかも時々チェックしますが、韓国も事情はおんなじで、ボクシングの試合の前などは「お父様とお母様の期待を受け、コーチと二人三脚でつらい練習に耐え、血の涙を流しつつ勝利を夢に見て克服し・・・」みたいな、情報価値ゼロの『選手情報』がたくさん書かれますが、そういうのは本当に読むのがイヤです。
お父様、お母様の話は日本でも定番ですが、読者の全員が選手の親子関係に興味があるわけではありませんし、コーチとどういう練習したのかのほうを書かないとスポーツ記事としてはなんの意味もありませんよね。
日本のボクシング中継では「さあ、こちらが試合を前に緊張の面持ちのチャンピオンのご家族です」などという場面がありますが、そんなもの映すくらいなら前座の試合でもやってほしいです。野球中継でピッチャーのご家族なんかいちいち映さないでしょう。
スポーツというのは感情や情緒でやるものではなく、おもな部分は科学性や戦略性が占めてるわけで、その部分を理解するかしないかで、観戦の面白さも変わるのですが、メディアにとってはスポーツの技術や理論の解説という面倒くさいことよりも、病気のお母さんのことでもネタにしているほうが楽なのでしょう。
その手の話で有名なのが、Kー1のブアカーオ選手が貧困の生活苦のためにムエタイの道を選び、妹を学校に行かせるために戦い続ける、というストーリーで、悪名高き谷川貞治さんあたりが連呼していたネタですが、全部ウソだったというアレですね。
タイの人に言わせると「ブアカーオのうちは普通」「普通の貧乏」というわけで、どうしてもムエタイで稼がなくてはならないわけではなかったようです。
谷川センセイ的には「ブアカーオの強さの秘密は貧困なんですねえ」とでもいえば解説終了で楽なんでしょうが(そう言ったかどうかは知りませんけど)、貧困だから強いという物語にはなんの科学性もありません。
K-1ファンのある人にブアカーオ選手の貧困ネタはウソですよ、と言ったら「えーーーっ!応援して損した!」と言われたことがあります。損なんかしていないじゃないですか。あれだけすごい試合見せてもらったら。
頑張ったから、ハングリーだから、根性あるから、すごい筋肉だから、パワーあるから、気持ちが強いから・・・谷川さんの解説はこんなのばっかり。格闘技雑誌元編集長でこの程度ですから。そりゃあ、ファンも成長しません。
ファンが成長しなければそのスポーツもそれまでです。
サッカーの解説で谷川さんみたいな人はいませんよね。根性あるからゴール出来ました、みたいなのは。
ちゃんと、ゴールに至る前にどういう崩しがあって、周囲のサポートがどうで、フィニッシュにどういう工夫があったか、ぐらい言えないとサッカー解説者とは言えません。でも、格闘技番組では技術論なんてなくても大丈夫。
だから、一般のひとからバカにされるわけですよ。貧しい人が根性で頑張れば勝つんでしょう、ってイメージなわけですから。
痛いのを我慢して最後まで立っていたほうが勝ちみたいな、知能低そうなイメージが格闘技にいまだにあるのはメディアの人たちのせいです。
口を開けば「根性」「ハングリー」と言う解説者がいたら、仕事さぼってると思ってください。
ハングリーで勝てるなら練習いりませんよ。
コメント
私は格闘技はボクシングしか知らないのですが、日本のボクシング界はいまだに根性が賞賛されるのは事実ですね。
実際は今のボクシングの国際的な採点基準はいかに打たせないかが重要で、100発打って10発ヒットした選手より50発打って15発ヒットした選手にポイントが入ります。日本のボクシング界には未だに打たれても前に出続ければポイントを奪えるという1980年代の考え方が主流なんですよ。
ハングリー精神が強さに直結しないのは事実でしょうが、困難な境遇の選手が頑張る姿を応援したくなるのは事実ですからねぇ。だからといってハングリー精神の捏造はあってはならないのですが。
精神論を推奨する日本人の国民性もあると思いますよ
>まささん コメントありがとうございます。
本当におっしゃるとおりで、打たれても前に出続けるというのが日本人の好きなスタイルなんですが、好きなのと勝てるのとは違う話なんで、そこをゴッチャにしてはダメなんですよね。
打たれても前に出続けるのは、突撃戦が得意な国の軍隊では歓迎されるメンタルですけど、人が死んでも国が勝てばいい戦争の価値観をスポーツに持ち込んではいけませんよね。
トレーナーのエディ・タウンゼントさんは、選手は引退してからのほうが人生が長いんだから丈夫な体で帰してあげるのが指導者の仕事、と言って、打たれる選手にはすぐにタオルを投げました。それが正しい判断だと思います。
護身術的に言っても、打たれながら前に出て相手に勝ったとして、自分がボロボロでは意味がないわけです。
だから、打たれずに打つ選手がQRは好きですし、理想のファイトスタイルだと思います。
ハングリーに関しては、世界にはもの凄い環境の選手がいくらでもいて、ドイツボクシング3人娘と言われたメンツァー、グラフ、ケンティキアンの3選手は、それぞれ、カザフ、ベラルーシ、アルメニアという故国を出なければならなかった移民ですし、女子キックとボクシングのスターで熊谷直子選手のライバルだったキム・メッサー選手は韓国の街中でたったひとりで立ちすくんでいたところを拾われた身元不明の孤児ですし、女子ボクシング史上最強といまも言われているアン・ウルフ選手はほとんど路上生活者でした。
QRはこの人たちが全部大好きですが、それには彼女たちの生い立ちは関係無く、好きな理由は彼女たちのファイトです。
親は関係ないとか、ハングリーは関係ないとか、自分たちながらドライなことを書いているなあ、とは思いますが(笑)、そのくらい書かないと人は考えないでしょう。
根性あっても、ハングリーでも、それだけでは勝てない「血も涙も無い世界」が格闘技だと思います。