Boxing
藤岡奈穂子選手とイサベル・ミジャン選手のタイトルマッチには、女子がメインの大会としては異例なほどのたくさんのお客さんが詰め掛けたそうで、まずは良かったと思います。
女子ボクシングは日本でJBCさんの公認になってから何年もたちますが、その初期からインチキや不祥事がはびこって人気獲得に失敗、世界タイトルマッチであっても後楽園ホールはガラガラが普通。
こういう現状をなんとかしようと頑張っている女子ボクサーのひとりが藤岡選手です。その藤岡選手の試合で後楽園が埋まるようになったのだからこれは良いことです。
しかし、これで日本の女子ボクシングが世間に認められるプロスポーツになるのかというと、それは別の問題。
藤岡選手といえば「とにかく強いヤツと戦いたい」「海外の大会場で戦いたい」が口癖で、実際、強豪と戦ってきました。フライ級世界最強の一角であるドイツのスージー・ケンティキアン選手とも戦いましたし、メキシコの人気者マリアナ・フアレス選手とも戦いました。
スージー・ケンティキアン選手は本当に強い人で、この人と日本人選手が戦うというだけで本来は大ニュースなのですが、メディアは全然伝えません。試合に負けたということもあって、試合後も何にもなかったような扱いで、大きな挑戦をしたのに話題にもなりませんでした。
その後、マリアナ・フアレス選手を相手にメキシコの7000人の大観衆のまえで判定勝利という快挙をはたした藤岡選手。しかし、これにも反応は低調。
ようするに、強いヤツと戦っても、海外の大会場で勝利しても、日本のメディアは動かないのです。
そこで藤岡選手陣営が最近強調していたのは日本最初の「4階級制覇」「5階級制覇」という話題です。
「3階級制覇」ではあまり反応しなかったマスコミも、今回の「4階級制覇」は大きく伝え、新聞に写真も載りました。藤岡選手が41歳になったことも話題の補強材料でした。
このまま「5階級制覇」を達成したら、今回よりも話題になるでしょう。注目度も高いと思います。
皮肉なものですよね。ボクサーとして最大の挑戦をしたケンティキアン戦はまったく注目を集めず、海外で最大の勝利を得たフアレス戦さえごく小さな反応で、今回は今までの相手よりも数段落ちるマイナーボクサーが相手だったのに最大の反応があるのですから。
でもね、こういう例はほかにもあります。例えば、RENA選手。彼女はほとんど完全に壊滅していた女子シュートボクシングという分野を再生し、女子のイベントを成立させ、女子王座を復活させ、数々の難敵と苦しい試合を勝ち抜いて来ましたが、その努力と結果に見合う報酬を得ることは出来ませんでした。知る人ぞ知る、といった存在で、いまいちメジャーではなかったのです。
それが年末の格闘技大会に出場し、本職ではないMMAで勝ったら人気爆発。その後は大会の顔として押しも押されもしない存在に。
かつて彼女が戦ってきたSBやキックでの試合に比べれば、いまのMMAの相手はいろんな意味で一枚も二枚も下です。ですから、RENA選手は決してMMAの世界ではトップの位置にあるとは言えないのですが、人気はトップです。
これはRENA選手にとってはボーナスステージですね。いままでの努力が、ちょっと本来の道じゃないところでですが、報いられているという。彼女はそれだけの報酬に値することをやってきましたし、シュートボクシングでは確かにトップ中のトップなので、スターの座を享受するのは当然のことでしょう。
でも、RENA選手がいま浴びている注目を、どれだけシュートボクシングに持ち帰れるかということに関しては、これからの仕事です。また別の仕事ですね。
同じように、藤岡奈穂子選手も今回の「4階級制覇」そして「5階級制覇」で掘り起こす話題性を、どれだけ女子ボクシングの地位向上につなげられるかは、難しいことだと思います。
話題だけなら、作るのはそんなに難しくありません。話題を作る人たちにコンタクト出来ればなんとかなります。2003年にはライカ選手が『徹子の部屋』に出たこともあります。でも、そのことで女子ボクシングの地位があがったりはしませんでした。
日本のスポーツマスコミが「強いヤツとのガチ勝負」よりも「わかりやすい身近な話題性」を追う限り、女子ボクシングは正当に評価されることはないと思います。
男子のボクシングさえバラエティ番組で名前を売らないといけない存在ですから。というか、そういう仕組みになっているんです。日本はテレビの国なので。
残念ながら、社会の構造的な問題であるため、誰かがなんとかできるものではありません。
あんまりいろいろ背負わず、何かを残せば良しとして、あとはご本人がやりたい試合を出来ればいいのではないでしょうか。大丈夫、歴史は確実に作られていますので。
ボクシングファンはそういう気持ちで応援するべきだと思います。
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なるほど