観客席視点からの立ち技系女子格闘技
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相手にボクシングをさせない 王者吉田実代 吉田実代 VS 若狭与志枝 日本女子バンタム級タイトルマッチ 試合経過 VICTORIVA Vol.4 ボクシング女子

2019年3月13日(水)東京 後楽園ホール
VICTORIVA Vol.4

第6試合 日本女子バンタム級タイトルマッチ 6回戦
王者 吉田実代 よしだみよ(OPBF東洋太平洋バンタム級王者:防衛1回/EBISU K’s BOX)
VS
挑戦者 若狭与志枝 わかさよしえ(花形)

 赤コーナーは日本チャンピオンで東洋太平洋チャンピオンでもある吉田実代選手。これが彼女の日本バンタム級王座の2度目の防衛戦です。

 青コーナーは挑戦者の若狭与志枝選手。プロデビュー以来無敗のトップコンテンダーです。

 若狭選手はここまで6戦全勝という戦績でわかるとおり、非常に安定したボクシングをする選手です。攻撃も防御も大きく崩れることないのが特徴。

 しかし、今日の敵である吉田実代選手は、安定した選手を不安定にして勝つのを常としている策士。きょうはどんな作戦を用意しているのでしょうか?

 と思っていたら、さっそく出ました、左足を踏み出しながら左拳を打ち込む同側(どうそく)パンチ。
 足を踏み込むと同時に同じ側のパンチを打ち出すこの技は、確実な重心移動によって大きな威力を持つパンチです。

 そして、これは、吉田選手のシュートボクシング時代のライバルだった高橋藍選手の得意技。その破壊力の前に吉田選手は攻め込むことができずに黒星を喫した記憶があります。

 その技をこの試合に持ち出してきた吉田選手。何度も何度も出すので、偶然ではありません。明らかに対若狭選手用に準備してきたハズです。

 毎回毎回、左のパンチばかりではさすがに読まれるので、左をわざと空振ってから右を打ち込む吉田選手。

 試合序盤から吉田選手のペースに傾くのをクリンチでなんとかしようとする若狭選手。

 しかし、焦りからか振りが大きくなったところを狙われてしまう若狭選手。

 若狭選手も吉田選手の出てくるところに合わせて左アッパー。しかし、ジャストミートはならず・・

 クリンチ状態へ。

 リスタート後、再びアッパーを狙いますが、

 これは左手で簡単に防がれて反対に打たれてしまいます。

 若狭選手の強引な攻めは簡単にハズされ、

 さらにはガードの間隙を突かれて良いとこ無しの挑戦者。

 さらに命中を重ねる吉田選手の同側パンチ(別名ナンバパンチ)。

 しかし、この技がシュートボクシングで猛威をふるったのは・・・、同側パンチが出る瞬間にわずかに上がる左足がそのまま蹴りになるのか、あるいは同側パンチの動きなのかが読めなかったからです。 左足を上げることによって二択を迫ってたからです。

 では、蹴りの無いボクシングなのに、同側パンチがどうしてこんなに当たるのでしょうか?

 それは、若狭選手が真面目に戦い過ぎているからだと思います。

 若狭選手に限らず、日本の女子ボクサーは、相手が打ち気を見せるとほとんど全員がそれに応戦しようとします。逃げようとか、無視するとか、そういう選択肢が無い。打ち合いを望みます。 そこに叩き込まれてしまうわけです。

 冷静に考えたらこのパンチを見切るのは簡単なんだから、出ていかなければいいのです。あるいはパリーするとか、両方のグローブを揃えて押し返すとか、方法はいくらでもあります。 同側で大きく打ち込むパンチは基本単発で怖いコンビネーションが続くわけでもないですし、打ち合わなければいいんですが・・。

 しかし、吉田選手は若狭選手が絶対に打ち合いに来ると見抜いてこの戦法を取っているようです。そして、その狙いはビンゴでした。

 もう、試合前半で吉田選手のイージーな勝ちは決定的になり、ここから違う展開はないのかな、と思ったその時、若狭選手が吉田選手と同じ戦法をやり始めたではありませんか。 左足を踏み出しながら左パンチを・・

 いや、当たったのは吉田選手のパンチのほう。 若狭選手の左は左足に追いついていません。 ここは同時じゃないと同側パンチになりませんよね。

 もう一度トライする若狭選手。

 今度は左足と左拳のタイミングはバッチリ。 しかし、吉田選手は両手を前に出して簡単に防御。打ち合わなければ話はこんなにシンプル。

 なのに吉田選手がこのパンチを使うと、必ず迎撃しようとする若狭選手。 もう一度言いますけど、日本の女子ボクサーのほとんどが若狭選手と同じ体質ですよ。

 打ってこられると、正直に打ち返そうとする。それは間違いです。 トップの試合をもっと見ましょう。相手が打ち気を見せた瞬間にスタスタ離れるのもボクシング。 ボクシングとド突き合いは違うと思いますよ。

 この試合、クリンチも多かったですけど、吉田選手はクリンチの間もどこか殴ってましたね。少なくとも殴ろうとはしていました。

 クリンチの時に打っても無駄だという人もいますけど、これ見たらそうは言えないでしょう? とにかく打たないで組んでるだけなんてダメですから。

 それでは最後にもう一度、吉田選手と若狭選手の打ち方の違いをご覧ください。ほぼ同時に打ちに行っていますが・・・。

 若狭選手は足と手の連動がイマイチで、

 きちんと弾着出来ませんでした。

 まあ、ボクシングではこのパンチを使うことはそうそうないでしょうけれど、引き出しにこれがあるかないかでは違うかもしれません。

 というわけで、判定は大差でチャンピオン吉田実代選手の勝利。

 吉田選手の戦い方については賛否激しく分かれるようです。 確かに、吉田選手のスタイルは相手にボクシングをさせないですから、そういうのを卑怯と思うひともいるかもしれません。

 しかしね、文中にも書きましたが、ボクシングって正直に打ち合うものではないでしょう。よく、海外で負けてきた選手が「相手は逃げ回って卑怯だった」「相手はクリンチばかりだった」「押してくるばかりだった」などと言いますが、卑怯じゃなくてそれがボクシングだと思いますよ。

 藤岡奈穂子選手がメキシコ選手のクリンチに苦戦して帰ってきた後、でも、あれと戦えないといけないと言ったそうですが、本当にそうだと思います。 自分がきれいに戦えば相手もきれいなボクシングしてくれるなんてのは幻想なんですから。

 しかし、今回の試合はQRは物足りなかったです。吉田選手にはキックボクシング、シュートボクシング、MMAなどのリングキャリアもありますし、東洋王者で、A級ライセンスなんですから、経験の浅い若狭選手とは力の差は歴然。

 でも、若狭選手が国内で最強の挑戦者だったんです。じゃあ、誰と戦えばいいんでしょうね? 世界のトップにはそんなに簡単には手が届かないし、その中間の選手がアジアにはいないし。 なにより日本のマッチメーカーが世界の中堅選手とコネが無いのが痛いです。

 そう考えると今回は、若狭選手ともっと「ボクシング」しても良かったんじゃないでしょうか?見る人の評価どうこうではなくて、吉田選手自身の経験値として。

第6試合 日本女子バンタム級タイトルマッチ 6回戦
○王者 吉田実代 よしだみよ(EBISU K’s BOX)
判定 3−0
×挑戦者 若狭与志枝 わかさよしえ(花形)
吉田実代選手の判定勝利
(59−55、59−55、60−54)

吉田実代 よしだみよ(EBISU K`s BOX)13戦12勝(うちタイ人1)1敗
若狭与志枝 わかさよしえ(花形)7戦6勝(うちタイ人1)1敗2KO(うちタイ人0

関連記事 RENA VS メイリー・ウォン・ポーマス、高橋藍 VS 吉田実代 結果 シュートボクシング女子

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コメント

  1. g1j2p5i5 より:

    女子の場合、世界挑戦と言っても、適正階級だけでなく選択肢が上下に拡がるので、ファンにとっても悩ましいですよね笑

    女子バンタム級
    WBA→Mリバス剥奪濃厚。その場合、暫定女王ナバァが正規昇格?。休養にコルデロ
    WBC→バービーが転級&ザリカへの挑戦表明。アマンダに負けたボウベルガーは暫定剥奪濃厚。
    というわけで空位に?。
    とデタラメWBACはおいといて
    IBF→MCローマン、今月防衛成功
    WBO→来日経験もあり、PFP候補まで囁かれるようになったベルムデス姉、本日強豪Iガルシアと防衛戦

    MCローマン、ベルムデス姉とやれるようでしたら魅力的ですが

  2. 一ファン より:

    卑怯というより、吉田さんの試合は一ファンである私個人としては、見ていてつまらないです。
    でも勝つことを第一に考えたら、本人にとってはあの戦い方がベストなのかもしれません。
    そして、技術的にとても勉強になるお話、ありがとうございました!!

    • queensofthering1 より:

      >一ファンさま コメントありがとうございます!
      ほとんど同感です。以前にも書きましたがこの試合は見るべきものが少なかったですね。
      2ラウンド見ればもう十分といいますか、あとは同じことの繰り返しでした。
      で、この試合だけではなく、吉田選手の試合はそうなるパターンが多いのですが、
      それは吉田選手の問題というよりは、相手の選手が吉田選手の作戦にハマり過ぎているからという気がします。
      日本の選手は最初に自分の思い描いた通りに行かなかった場合、
      軌道修正出来るひとが少ないですよね。ファイトスタイルがひとつしかないというか。
      例えば、前に出る、打ち合う、みたいなスタイルの人は、先手を取られて超前進されるともろいですよね。
      吉田選手に敗れたみなさんはその辺を改善すればもっと先に行けるわけですが・・。
      そうなれば日本の女子ボクシングはかなり面白いことになると期待しています。

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