Boxing
「同じタイからの選手でもムエタイなら良い選手が多くて、ボクシングだと全然期待出来ないという現象の理由がよく分かりません」という質問を何人かの方からいただきました。
簡単に言うと、タイではボクシングは人気がない、ということがすべての原因です。人気がないから良い選手がいないということなのです。
とは言っても、ボクシングもムエタイも同じジムで練習していますから、両方に出ている人もいます。しかし、プロとしての意識はボクシングとムエタイではまったく違っているのです。
タイでは入場料を取っておこなうボクシング興行というのは基本的にありません。ボクシングはムエタイ大会の前座かメイン終了後に組んでもらうか、企業や政治家がおこなう住民サービスの無料大会ぐらいしか出場機会がないんです。
ボクシングもムエタイもファイトマネーがスポンサーから出るということは同じですが、ムエタイは人気種目なのでボクシングよりファイトマネーは多く、また、お客さんが選手にお金を賭ける文化があるので選手へのご祝儀もあります。お客さんが盛り上がるような試合をすることが直接選手の収入につながり、それが次の試合に呼んでもらえることにもなっていきます。
ですから、ムエタイ選手はお客さんやスポンサーが応援してくれることが自分たちの存在を支えている事実をよく理解しています。プロ意識は高く、ファンサービスには嫌な顔ひとつしません。
一方、ボクシングは人気もありませんし、賭けるひともいないので選手へのご祝儀も無く、プロとして成立していません。
男子ならムエタイで強すぎて相手がいなくなった猛者や、体が大きすぎてムエタイ向きでないためボクシングに転向して来た人や、もともとボクシングが大好きな選手などもいますから、そのような人の中には世界のリングで通用する名ボクサーも存在します。もちろん、彼らには海外でビッグマネーを稼ぐ機会もあります。
しかし、ご存知のように女子のボクシングではそういうことはありません。タイのボクシングの実情はムエタイで勝てない選手や、人気の出ない選手の受け皿としての一面があるのですが、女子では特にその傾向が強いのです。
考えてみてください。同じジムにムエタイとボクシングの両方からオファーがあった場合、良い選手をどちらに出すでしょうか?ムエタイのほうが人気があるのに、不人気のボクシングの方に良い選手を出すでしょうか?出しませんよね。特に女子の人気選手はジムの貴重な戦力なのでわざわざ不人気種目に出すはずはありません。
また、ムエタイとボクシングでは技術的な共通点よりも違う点のほうが多いので、ムエタイ選手をボクシング向けに作り直すには専門の指導者が必要ですが、タイの女子ボクシング関係者はそういう事実を理解していないか無視しているようです。
そんなわけで、ボクサーとして専門のトレーニングを受けたこともなく、「お客さんが高いチケットを買って見に来ている」というプロ興行の仕組みも理解していないタイの女子が海外のボクシングに呼ばれても、お客さんが熱狂するような名勝負を残すことはないのです。
一時期、「かわいい子を出せば人気種目になる」と思い込んだお馬鹿な在タイの関係者や、海外の女子ボクシングの水準も分からずに実力無視の売り込みをした世間知らずのプロモーターがいたことも状況を悪くしました。
その結果、ヨーロッパやメキシコではタイ人女子ボクサーは三流という評価が定着して歓迎されませんし、アメリカにもそういう事情は知れているようです。
当分の間は、この状況が変わることは無いでしょう。
ボクシングの文化やスポーツとしての価値観や歴史を理解し、それを愛する関係者がいてこそボクシングは成立します。ボクシングとムエタイのどちらも理解出来ず、どちらも愛していない小金目当てのプロモーターやブッカーが手を出しているうちはタイの女子ボクシングに未来はないでしょう。
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