Boxing
『過去の対戦歴を見ておりますと、日本人世界チャンピオンの対戦相手は、韓国、タイなど、アジア系のチャンピオンから奪取している場合が多く、欧州、北南米の選手と戦った選手があまりいないような気がします。女子ボクシングはアジア系の選手が強く、欧米の選手はそれほど強くないのでしょうか。』
『プロ化されたばかりの日本の女子ボクシングが、アマチュアでは世界レベルの活躍ができていないにも関わらず、プロになればあれだけ活躍できているのはなぜなのでしょうか。』
かつてこのようなご質問をいただいたことがあります。そのような疑問はたしかに当然でしょう。簡単にその質問にお答えすると、ようするに日本人女子プロボクサーはあまり世界の強豪選手と戦っていませんし、戦わなくとも何とかなってしまうのです。情けない話ですがそれが日本人女子ボクサーが活躍しているように見える理由です。
ヨーロッパや南北アメリカ大陸の女子ボクシングには強いアマ選手がたくさんいます。そして彼女たちの中から強いプロ選手が多く生まれています。また、キックボクシングなどの他競技から参入してボクシングで大成した選手や、他競技とボクシングを掛け持ちして活躍している選手も少なくありません。
男子に比べると選手の絶対数が少ないのはどこの国でも同じですが、ヨーロッパや南米中米北米のトップ選手たちは広いバックグラウンドのなかから競争を勝ち抜いてきているということは言えると思います。そしてそのような選手たちがそれぞれの地域で激戦を繰り広げ、すでにプロとしての地位や人気をある程度(あるいはかなりの程度に)獲得しています。
アジアでは中国、インド、北朝鮮などに世界のトップクラスのアマ選手がいるのですが、残念なことに、これらの国ではプロボクシングの実態がないためプロになる選手はほとんどいません。一方、日本、韓国、タイなどは女子のアマチュアボクシングが未発達で、まだまだこれからの位置にいます。
しかし、皮肉なことにアジア圏で女子のプロボクシングが盛んなのは、日本、韓国、タイ。このため、アマ実積の無い選手がいきなりプロに参入するか、タイのムエタイ選手が掛け持ちで参戦するかといったところが実情で、アジアの女子プロボクシングはほかの地域に比べると水準は高くありません。
というわけで、アジアのプロ選手はアジア圏だけで戦っていれば、あまり強敵と当たらずにすみます。それでも勝ち星を積んでいけば、勝ちは勝ちですので世界順位もあがっていきます。
WBCやWBAが女子王座を制定したのはわりと最近のことなので、欧米に古くからある他団体に比べてWBCやWBAのベルトをめぐる争いはそれほど熾烈でもなく、2008年ぐらいまでは空位の王座もけっこうあったのです。その時期には、韓国やタイのレベルの低い選手でも空位の階級の王座決定戦に参加すれば、初代の世界チャンピオンになることが出来ました。日本人選手が運良くそのような韓国人やタイ人の世界チャンピオンに挑戦することが出来れば、ベルト奪取は難しいことではなく、王者となったあとは韓国やタイの選手たちと防衛戦をおこなえば、王座を守っていくことも比較的容易でした。
アマチュアボクシングでは世界的な実積がない日本の女子選手が、一見、プロでは活躍出来ているように見えるのは、そのような事情です。
しかし、強さを計る本当のモノサシは、ベルトの有無ではなくて、誰と戦ったか、誰とどんな戦いをしたか、ということです。日本人女子世界王者の中には実力的には疑問のある選手もいます。本当に強い選手もいます。王者でなくても世界レベルの強い選手もいます。
強い日本人選手がその実力を世界に向かってキッチリ証明出来ているかと言えば微妙なところですし、実力に見合った知名度があるかと言えば答えはノーでしょう。強さの証明と名声の獲得のためには日本人選手はどんどん世界の選手と戦ってゆくことが大事です。
しかし、残念なことに世界のトップクラスの選手は日本では対戦を禁じられている他団体に所属していたり、資金的な面で男子と比べて日本の女子環境はさらに苦しいという事情もあって、海外から本当に強い対戦者を呼ぶのは困難。
日本人女子の対戦相手がアジア系ばかりという事実の裏にはこうした規則の壁と資金面の問題も大きいようです。
★日本人世界王者の対戦国内訳
WBC ライトフライ級 チャンピオン富樫直美
韓国(1)日本(2)タイ(2)メキシコ(1)フィリピン(1)
WBC アトム級 チャンピオン小関桃
韓国(2)日本(2)タイ(3)
WBA スーパーフライ級 チャンピオン天海ツナミ
日本(2)タイ(1)中国(1)イギリス(1)
WBA ミニマム級 チャンピオン多田悦子
韓国(1)日本(1)タイ(2)メキシコ(1)トリニダードトバゴ(1)
WBC ミニフライ級 チャンピオン藤岡奈穂子
メキシコ(1)
コメント
わかりやすい!ヨイショ記事じゃなくてこういう客観的なことを読みたい。