Boxing
2011年6月7日の後楽園ホールの大会であまりにもひどいレフリングがおこなわれ、二つの試合でふたりの選手が非常に危険な目にあいました。
まずは、セミファイナルのスーパーバンタム級8回戦中村幸裕 VS 山口卓也戦。この試合は両者がダウンを奪い合う激しい試合で観客席も大変に盛り上がっていました。
第4ラウンドの中盤、中村選手のグラブのテーピングがほどけてきているのを見たレフリーが試合のストップを命じますが、その直後に中村選手の強烈な右ストレートが山口選手に命中、山口選手は打撃のダメージとダウンの際に足をひねって負傷したために戦闘不能に。しかし…
写真でお分かりのように杉山利夫レフリーは中村選手の真後ろからストップを命じており、レフリーの動作は中村選手にはまったく見えていなかったのです。一方の山口選手はレフリーがふたりに近付きながら停止を命じているのが見えていますので、中村選手よりも早くストップの指示を理解して動きを止めていました。その結果、まったく無防備な山口選手に、まったくストップの指示に気がついていない中村選手のパンチが直撃したのです。
この時、レフリーは「ストップ、ストップ」と比較的大きな声で命じていますが、その前後に両者の応援や観客の歓声で場内は大変ににぎやかになっており、中村選手には指示の声が充分聞こえていない可能性があります。
しかも、レフリーが声をかけたタイミングが最悪でした。すでに中村選手は左フックから右ストレートという一連の流れに入っているところだったので、彼の耳にストップの声が入ったとしてもパンチを止めることが出来たかどうかは大いに疑問です。
基本的にレフリーは両者の目に入る位置に立ち、流れの切りのいいところで、はっきりと停止を命じるべきで、この部分でまずミスがあったと思います。
このあとリングアナが「スリップダウン」をコール。レフリーはダメージの大きい山口選手をリングに立たせ、ニュートラルコーナーに連れて行って2分間の休憩を与えます。パンチを当てた中村選手は重大な反則だったということで2点の減点という重い裁定。
しかし山口選手はご覧のような状態でとても試合が続行出来るようには思えません。
このあとレフリーが本部席と長い相談。結局、試合は「あきらかにパンチを止められるタイミングなのに止めなかったという悪質な反則」という説明付きで中村選手の反則負けということに。
このアナウンスが流れると場内には激しいブーイングと非難の声。ボクシングのお客さんはキックや総合格闘技のお客さんに比べると非常におとなしく、レフリーの裁定に対してもこれほどの抗議の声が上がることは珍しいのですが、今回は大変に場内が騒然としました。
もしも本当に「悪質な反則」があったのであれば、反則がおこなわれた時に即座に反則負けにするのが本当です。いったんは回復までの休息と減点で事を収めようとしたにもかかわらず、ダメージが深いとわかったら急に方針を変えて反則負けというのでは、判断の基準がどこにあるのかわかりません。
今回は、そもそものストップの指示が不適切であったので、「選手の反則」というよりも「レフリーの過失」という要素が大きく、当然、ノーコンテスト扱いとなるべきです。
体に深いダメージを負ってしまった山口選手、本人の過失ではない反則負けを付けられてしまった中村選手、ともに本当に気の毒です。
さて、この日はメインの65kg契約8回戦塩谷智行 vs 沼田康司でも見るに耐えないレフリングがおこなわれました。
元日本ウェルター級王者の沼田選手がまさかの不調で、打たれる場面が多く、4回には上の写真のようにロープ際や赤コーナーで一方的に被弾。もうこれで試合終了かと思われましたがレフリーはじっと見ているだけでまったく止めません。最初のピンチでは30秒間、次は20秒間、沼田選手が塩谷選手にメッタ打ちされますが止めません。
苦しみながら5回を切り抜けた沼田選手ですが、やはり動きが悪く、6回中盤にはまたもやラッシュをうけて15秒のあいだ一方的に打たれ続けます。しかし、試合は続行。
6回、残り時間50秒のところで今度はニュートラルコーナーに張り付けにされた沼田選手。フック、アッパーの嵐をまったく無抵抗で受け続けます。観客席からは「止めろ」「もういいだろ」と声。
ついには体が前屈みに「く」の字になり、もはや崩れ落ちる寸前。しかし、福地勇治レフリーはこの回の終了のゴングが鳴るまでまったく動かず、メッタ打ちの沼田選手を見守るのみ。その50秒の間に沼田選手が受けたパンチは70~80発ぐらいはあったでしょうか。
6回終了後にフラフラと自陣コーナーに戻る沼田選手のダメージの深さは誰の目にも明らか。そして、そのままインターバル中に棄権…。
大昔はこのような場面が少なくなかったボクシングですが、近年になって「細かい連打を浴び続けるのが危険」という認識が広まるにつれて、一方的に続けてラッシュを浴び続ける場面では試合を止めるのが常識となっています。
今回はどうしてその常識が発動しなかったのでしょうか?一歩間違えば大事故という場面がどうして放置されたのでしょうか?リング禍が連続するときは早めのストップが多かったボクシング界ですが、最近は危機感が薄くなっているのかもしれません。
事故が起こってからでは遅すぎます。いまこそ猛烈に反省していただきたいと思います。
関連記事 ボクシングマガジンさん、しっかりしてください 山口卓也選手負傷/中村幸裕選手反則負け事件について
コメント
自分は昨日は見ていませんがこれはひどいと思います。山口選手は足を骨折の疑いらしいですね。
沼田選手は大丈夫だったでしょうか。
福地レフリーは早く止めるときはすごく早いのにどうしたんですかね。
>ボクシングのお客さんはキックや総合格闘技のお客さんに比べると非常におとなしく
この部分はいかがなものでしょうか。
他競技への冒涜と受け取れますが…。
管理者さまの個人的な感想かも知れませんが、
余計なお世話かと。
QRはキックもボクシングも好きなのでどちらも冒涜する気はまったくありませんよ。全然冒涜していませんし。競技に対しても、お客さんに対しても。
しかし、運営に関してはダメなものはダメと書きます。
今後も、このブログが続く限り個人的な見解は遠慮なく書かせていただきます。
QRよく言った。
この事件が気になって検索したがまともに書いてるとこはほとんどないね。中村対山口については少しだけあったがみんなバラバラのこと書いてる。山口がダウンから立ち上がる時に中村が打ったとか、膠着した二人をレフリーが離してファイトかける前に中村が打ったとか。誰かが動画アップしてたんで見れたけどQRが書いてるとおりだった。山口は悪くないよ。あのレフリングは駄目だ。
レベルが低いと思う。
沼田選手のセコンドは何でさっさとタオル投げなかったんでしょうかね?
タオルを投げるべきでしたね。
タオルを投げることは恥ではありません。
投げられないことのほうが恥だと思います。
今までの沼田の試合を見て頂いていればわかると思いますが、沼田はラウンドを重ねる事に調子が出てくる。
わざと打たせる事をしたりして、相手を疲れさせて反撃に出るやり方をしてました。
その事をレフリーの方は、知ってたのであえて止めないでいてくれたんだと思います。
…他の人の試合はわかりませんが、沼田の試合に限って言わせて頂ければ、あのレフリーは間違ってなかった。むしろ、普通なら止めなければいけない所を、止めずに試合を続けさせてくれた事に感謝したいです。
普通なら止めなければいけないものは誰の場合でも止めなければならないのです。そうじゃなきゃおかしいですよ。
レフリーは危険だと思ったら、即試合を止めるべきです。セコンドも選手の事を考慮してタオルを投入するべきですよ。一番の恐怖は後遺症で日常生活に影響する事ですから。
中村vs山口戦、ホントに酷いレフェリング。
ちょっと反省して欲しいですね、あのレフェリー。
レフェリーやジャッジの判定で、白けてしまうことが残念だし、ましてやボクシング、最悪の場合生命にも関わるから恐ろしい・・・。
この話を書くところはどこもないのか?日本の大新聞やテレビ局は全部おかしいのはわかっていたけどスポーツ関係のネットもだめなのかい?
見ただけでなく、審判の思いも考えてコメントしてほしい。レフェリーは、プロ。選手の一番側で、選手のことを見てる。周りから見ていて、どんなに打たれていても、選手のことを一番に考えているのはレフェリー。
早く止めるときもあれば、そうでないときもあるかもしれない。でも、それは、選手のことを一番に思って、一番いいタイミングで止めると思う。レフェリーが止めなくても、選手と一番信頼関係の強いトレーナーがタオルを投げればいいこと。レフェリーとトレーナーの思いは一致していたのではないか…とても思う。
>アリ榎井さん コメントありがとうございます。
しかし、なにをおっしゃっているのかわかりません。
審判の思い?それは本人以外はわかりませんよね。わからなければ黙っていろということでしょうか?
あなたのおっしゃるとおりレフリーはプロです。プロは仕事の内容を回りからなにか言われても仕方ないのです。
>早く止めるときもあれば、そうでないときもあるかもしれない。
それは競技をさばく立場の公平の原則に反しますよ。
レフリーは一番近くで見ているという言い方はボクシングでもサッカーでもレフリーを擁護するときの古典的な言い方ですが、近くで見ようがなんだろうがミスはミスです。
ミスを指摘することによってレフリーの名誉が傷つくかもしれませんが、選手の命はレフリーの名誉よりも重いのです。
どうかレフリーが可哀想だという感情論ではなく、安全の原則と公平の原則に立って考えてみて下さい。
大事なのはそういうことだと思います。