「女子は男子よりもパワー、スピード、瞬発力で劣っているので女子のスポーツは見る必要がない」なんて言う人がいます。
もしも、スポーツが「パワー、スピード、瞬発力」で決まるのならそのとおりなのかもしれませんが、それでは「スポーツ=体力測定」になっちゃいます(笑)。
でも、ある年代の格闘ファンにはパワーとか筋肉にこだわる人が多いようですね。「すごいパワーです!」「この筋肉すごいです!」という谷川さんの解説の影響でしょうか。テレビって怖いですね。
もちろん、格闘技のエレメントにパワーが占める割合は非常に大きいものがあります。たとえば、女子ボクシングの4回戦を見に行って、両者の技術がイマイチだったとすると、その試合はまずKOにはなりません。正確なフォームで正確に打ち抜いたパンチでなければ、女子のパワーで相手が倒れることはないからです。
しかし、男子の場合はレベルの低い選手どうしの試合でもKOになることは珍しくありません。適当に出したへたなパンチでも男子のパワーなら相手に効いてしまうラッキーもけっこうあるんですね。
ラッキーの勝ち星でも勝ちは勝ちですから、いくつか重なれば上のクラスに進めちゃいます。そして、そうやってたまたま勝っちゃった彼は、たいていの場合は自分の能力を過信してそれ以上伸びない選手になります。素人目にもへたな選手が男子の6回戦などにときどき混じっているのはこのためです。
女子の場合はそういうラッキー勝利はありませんから、へたな選手は簡単に上には行けません。必死に練習して技術を向上させるしかありません。男と違って女子は最初からケンカ自慢のひとなんかいませんから、トレーナーの言うことを真面目に聞く。だから、伸びる選手は確実に伸びます。それが女子ボクシングの4回戦や6回戦を見る楽しみです。
いい女子ボクサーを見たいのなら、4回戦からこつこつと勝ち星を積み重ねてきた選手を選びましょう。それが間違いありません。
また、見た目が可愛いとかチャーミングとか美人とかじゃなくて、フォームのきれいな選手を選びましょう。フォームの美しさは正しい基礎練習を積み上げてきた証拠。そういう選手の試合なら軽量級でもダウンやKOが期待出来ます。
ボクシングのフォームは最低限の力で最大限の効果が出るように作られているものなので、男子ほどのパワーがない女子でも、正しいフォームで正しいタイミングに打てば相手を倒すことが出来るのです。
スージー・ケンティキアン vs シェイニー・マーティン 2007年
動画は最近は日本の記事にも名前が載るようになったスージー・ケンティキアン選手(ドイツ・28戦無敗)。ケンティキアン選手の体重はわずか50キロ。それでもこの破壊力です。
軽量級のKOは、フォーム、タイミング、そして強い意志が生み出す名人芸みたいなもの。大げさに言えば奇跡の一種かもしれません。
そんな奇跡を何度も成し遂げた『キラー・クイーン』ケンティキアン選手ですが、最近はどうも試合に精彩がありません。どこか微妙にチューニングがズレているんでしょうけれど、パワーや体格に頼らずに、強い意志で極度の集中を持続し、勝ち続けているケンティキアン選手にとっては、その微妙なズレでも命取りになるかもしれません。女子のトップボクサーであり続けることの困難さが伝わってくる気がします。
先月は26戦全勝をマークしていた世界王者イナ・メンツァー選手(ドイツ)が意外にも判定で陥落してファンを驚かせました。スロースターターのメンツァー選手はいままでも前半にリードされる危ない試合がありましたが、そんなときは勢いにのって攻めて来る相手に冷静なカウンターを打ち込んで逆転勝ちし、鋼鉄のような意志の強さを見せてきました。そんな彼女が、7月の試合では最後まで「怖い」と思わせるショットを一発も放てないままに敗戦。彼女もまたスタイリッシュなボクシングを身上としてきた選手だけに、ちょっとした何かのズレが王座陥落という大きな結果を招いてしまったのかもしれません。
女子の格闘技はボクシングに限らず、どんなものでもパワーに頼れないぶん基本技術の正確さや集中力や戦略の力を要求されるスポーツです。それが面白いと思うか、パワーがなくてつまらないと思うかは、見る人と伝える人のセンスの問題。
本当はトップクラスの男子もパワーを超えたところで戦っているんで本質は同じなんですけどね。
コメント
わはは。ひさしぶりのQR節全開、愉快愉快。やっぱ女子は女子のおもしろさがあるよ。
ところで武林風が猪木さんと提携とか?なにやるんだろか?
猪木さんですか。予想不可能ですね(笑)。
むかし、レイラ・アリ選手を呼んで猪木さんの娘さんと戦わせるという話のときにはびっくりしました。実現しませんでしたけどね。しなくてよかったんですが(笑)。