ボクシングファンの間でいまでは「来日するタイの女子は全部カマセ」というのは常識であり、選手の間にも「タイ女子とやるのは恥」という感覚が広まってきているようです。実際、少しづつタイ女子を呼ぶのは減っているようですし。
しかし、数年前に当ブログで「タイ人女子ボクサーを呼ばないで」と書き始めた頃は「はぁー?」「なに言ってんの?」という感じが一般的で、ほとんど相手にされませんでした。
いま、その時と同じような「はぁー?」という反応が多いのが「ムエタイのヒジは打撃技」「ヒジは必ずしも切る技ではない」と書くときです。切るのがヒジじゃん?なに変なこと言ってるの(笑)というような反応が多いですね。
でも、QRは年寄りだから覚えていますけど、むかしは日本のキックボクシングでもヒジは「倒す技」「ダウンを奪う技」だったんです。切る技じゃなくて。
QRはボクシングやSBも好きな立ち技全般のファンです。ムエタイの専門家ではありません。でもバンコク周辺やプーケットやチェンマイやパタヤで、大会場の全国放送マッチから酒場の野良ムエタイまで、一応は試合を見てきました。で、その時の印象で「ムエタイのヒジはカット技」というのはほとんどないんですよ。
流血はふつうにあるけど、特に多いわけでもなく、そんなにザクザク切り合うイメージとは程遠いです。やはり、タイでのヒジ打ちは相手を倒す技。
タイよりも日本でキックやムエタイを見る時のほうが切る試合にあたる確率ははるかに高いです。しかも最初から切りに行くんですよねー。それはタイではほとんどありません。
おそらく日本でヒジ=切る技のイメージが広がったのは格闘技マスコミのせいでしょう。流血の写真はインパクトありますから。それで「大流血戦」と書けばなんとなくスゴイじゃないですか。実況中継のアナウンサーや解説者も切る話ばかりしますしね。
また、以前は多少の流血ではストップしなかったキックボクシングが安全意識の高まりでちょっとのカットでも試合を止めるようになったのも大きいと思います。それで「切ればストップ勝ちになる」ということから、切るヒジの比重が高まったんでしょう。
でも、ムエタイはもともと軍隊の実戦武術ですから「敵の額を切る技」などあるはずもなく、カットでのストップはスポーツ化されてからのもの。しかもギャンブルにも関係しています。劣勢の選手でも終盤にカットで逆転TKO勝ちがあるなら賭けとして面白い、というわけです。
逆に最初からカットしたらそのあとは誰も賭けませんから(ムエタイでは途中から賭けるのが普通)ギャンブルが成り立ちません。だから、むこうでは早い回から切ったりはめったにありません(賞金やタイトルがかかっているビッグマッチは別)。
というわけで、いまでもタイでのヒジは打撃技の大事なひとつで、女子でも男子でもゴツゴツ打ち合います。ムエタイは組み付きありの実戦的な格闘技ですから、組んで距離がゼロになった時に出せる技は非常に大事。特に、相手と腕を交差しながらわずかにできるスキに叩き込むことができるのがヒジです。組み技と非常に相性のいい打撃技なんですね。
いくつかここにムエタイのヒジの動画を貼ってみました。一番上はいろんな選手のヒジKO詰め合わせ。タイの選手なら切ろうと思えば切れるわけですが、切ってストップ勝ちをもらうんじゃなくて倒して勝つのがやっぱり王道。切ってるだけのも入ってますけどこの中で見ると技としての説得力がありませんよね。
2番めの動画はヒジの使い手と言われるムアンタイ選手のハイライト集。キッチリ倒してます。見事ですね。距離のほとんど無い場面でもノックアウトできるのがヒジ打ちのいいところです。
3番目の動画はラムソンクラーン選手というひとなんですが、相手を押したり引いたりしながらヒジを入れているのがよくわかると思います。投げとか足払いとかと繋げる実戦コンビネーションになってます。いろんなものが絡まっていて本当の意味で総合というか、実にムエタイっぽいです。
切るのはムエタイでは追い詰められた時の最後の手段。最初から切りに行く日本人や欧米人のムエタイは、流血に目を奪われて価値観が変形してしまった間違ったムエタイと思います。
というか、キックだって本当は倒して勝つのが正統派。試合がまだ前半で相手がピンピンしてるのに血が出たからハイ終了って、それはプロとして違うと思うのです。
そろそろ誰かが「つまらないよ」と言うべきでしょう。
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