観客席視点からの立ち技系女子格闘技
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『ジョシカク』ブームは無かった それは利権作りのためのアピール & メディア受けする特性による幻影 一般の格闘技ファンのための100の大事なことがら その5

 第5回の今回は『ジョシカクブームは無かった 利権作りと宣伝効果』です。
いまの人はもうご存じないと思いますが、格闘技界にはひと昔前に『ジョシカク』という言葉がありました。女子格闘技をそのように呼んで、ブームを作ろうとしていたんですね。

 いま検索しても「ジョシカクブーム」でヒットするページは多く、本当にブームにしたかったんだなあというのが伝わってきます。

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 しかし、わたしたちも当時はその会場に数多く足を運びましたが、ブームと言われるような現象は一切見たことがありません。ただ、2回か3回ぐらい、「おっ、これから何かが始まりそうだ」と感じさせる大会はありましたが、どれもそこから人気に火がつくということは無く、すべて不発のままでした。

 そのように書くと「おかしい」「そんなはずはない」と思う人は多いでしょう。当時は格闘技雑誌をはじめ、一部のテレビやネットを巻き込んで、ジョシカクブームの文字はあふれかえっていましたし、山のような情報が流通していましたから。現場に行かないでそれらのものだけを追っていたら、本当にブームがあるように思ったでしょう。

 その種明かしのひとつは、まずこういうことです。

 かつて日本にはプライドさんとK-1さんという誰でもが知っている巨大格闘イベントがあり、そこには途方も無い巨額のお金が流れていました。格闘業界のひとだったら誰でもそれに関係したいと思いますよね。だって、本当に景気のいいイベントでしたから。

 しかし、だれでもがそこにからめるわけでもなく、多くの人がただ憧れてそれを見つめるだけでした。けれども、あることを思いついた人たちがいました。プライドさんがまだやってないことを別の格闘技イベントでやればいいんじゃないか?プライドさんがまだやってないこと?それは女子だ!!

 というわけで、1990年代から、ちょくちょく女子だけの格闘技大会が開かれはじめました。その関係者さんたちは自分たちがやっている女子格闘技が軌道に乗ったとして、そのあとにプライドさんやK-1さんが女子に扉を開けたらきっと爆発的な話題になり、自分たちに勝ち目が無いことを分かっていました。

 そこで始まったのが「女子は女子だけでやるべき」キャンペーンでした。彼らの言い分は「女子選手の試合は男子の試合のなかでやるとかすんでしまって良さが伝わらないから女子は女子だけでやるべきだ」という、ロンダ・ラウジー選手がUFCで大活躍している今では冗談みたいな理屈でしたが、活字の魔力というやつで、当時の格闘技雑誌で繰り返しその理論(笑)を読まされると、多くの人が信じたのでした。

 すでにテレビ局関係者を中心に、その利権が固まっているプライドさんなどにかかわることの出来ない業界人のみなさんは『女子だけ大会』という新利権が軌道に乗ったあとにオイシイ思いをさせてもらうべく、この「女子は女子だけキャンペーン」に積極的に協力します。

 特に、当時の格闘技メディアはこの新利権構築のために、来る日も来る日も女子特集。ありもしないジョシカクブームをあおりました。

 しかし、その実体はふたつもみっつも団体が旗揚げされても出る選手が存在せず、エキシという名の練習試合で水増ししたり、シロウト同然の子を無理矢理つれてきてリングに上げるという無法地帯。脅されて怖かったから出場しましたと告白する選手もいました。

 当時、都内のジムで練習していた女性なら年齢・キャリアに関係無く「試合に出てみない?」と誘われたことが一度や二度はあったでしょう。それくらいのデッチ上げのイベントだったのです。

 そのうち、選手たちのなかには「女子は女子だけ」路線に疑問をもつ者もあらわれました。「わたしだってプライドに出たい」「Kー1に出たい」というわけです。当然ですよね。

 これを「女子は女子だけ」の利権が欲しい一派は「自分勝手」「非常識」と批難しますが、時代の波には勝てず、ひとつ、またひとつと男子の大会でも女子の試合が組まれはじめ、ここから「第二期ジョシカクブームに見えるもの」が始まりました。

 つまり、男子の大会で戦う女子選手が非常に目立って見えたのです。これに飛びついたのが一般のスポーツ紙の記者さんたち。格闘技雑誌系の「女子は女子だけ利権」とはまったく関係の無い人たちです。

 スポーツ紙の記者さんたちは男子の大会で戦う女子選手の記事を写真付きで載せました。マニアだけが読む格闘技専門誌ではなく、一般のスポーツ紙に載ることの影響力は絶大でした。

 ある格闘技大会で全部で試合が11あったとして、そのうちの6番目の試合だけが女子だったとしても、スポーツ新聞は女子の試合をメインに記事を書きました。というか、男子の試合を全部無視して女子の試合だけ掲載したりもしました。

 これは読者の反響の多さと、「紅一点の女子選手が」的な記事の書きやすさから起きた現象で、会場ではあくまでもメインは男子だったのですが、事情を知らない人たちはまるで男子の大会を女子が乗っ取ったように見えたでしょう

 この現象は団体の主催者さんにとっても歓迎するべきことでした。すべてが男子の試合のときは結果欄に小さく勝ち負けが出るだけなのですが、女子マッチをひとつ組むだけで着実に記事が大きくなるわけですから、宣伝効果はバッチリなのです。

 このようにして、初期には「女子は女子だけ」キャンペーンと連動した雑誌記事が、後期には男子団体に進出する女子選手をフォローする新聞記事がつぎつぎと書かれ、はた目から見るとジョシカクの大ブームが継続的にあったように見えたのでした。

 しかし、現実には女子だけの総合格闘技団体で軌道に乗ったものはひとつも無く、度重なるファイトマネー不払いなどの不祥事を繰り返してそのほとんどが消滅。男子大会に女子が進出する流れも、新鮮味が薄れて失速しました。

 当時の格闘技雑誌やスポーツ新聞にあふれるジョシカク関連の記事を、その本質を誤解したまま指をくわえて見ていたであろうボクシングの関係者さんたちは、JBCさんが女子を解禁したとき、今度は女子ボクシングだと意気込んだようですが、それはまったくの見当違いだったわけです。

 当ブログでは何度も何度も女子だけのボクシング大会は無理だと説明したのですが、メディアからの刷り込みがあまりにも強力で、関係者さんたちは、女子だけ大会で大成功というありもしない幻想を追いかけてガラガラの赤字興行を繰り返しました。(写真は空席だらけの後楽園ホールでおこなわれた多田悦子 VS ノンムアイ戦。あまりにひどすぎて客席の写真はアップ出来ません。)

 どんなことでもそうですが、現場に行かないとものの本質は見えて来ないのです。ジョシカクブームは無かったのです。

・プライドやK1に絡めなかった業界人が、別個の新利権を作ろうと画策したのが『ジョシカク』

・『ジョシカク』は格通などの格闘技雑誌が根気よく仕掛け、次々に『女子だけ団体』は生まれたが、ほとんどが短期で消えた

・女子だけ団体に限界を感じた女子選手が男子団体に参入するようになると今度はスポーツ新聞が取り上げたが、それは『紅一点効果』であり、女子だけ団体の成功ではなかった

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コメント

  1. こびにゃん より:

     ジョシカクブーム? と、自分も苦々しく思ってました。
     男子だから女子だからというわけでもないですけど、筋肉量の少ない女子が打撃を受けるというのが、好きになれないんですよね。内臓へのダメージを考えるとどうにも。

  2. queens of the ring より:

    打たれる格闘技をするもしないも本人の自由ですよ。
    好きじゃない人は見なければいいだけです。

  3. まさ より:

    申し訳ないのですが「ジョシカク」という言葉は初めて聞きました。
    私が時代の流れに乗れてなかったのかも知れないのですが、私個人は格闘技においては「女子」を売りに商売は出来ないのではないかと考えます。
    男子だ女子だは関係なく、ただの格闘技の試合であり、出場している選手がたまたま女子で、その試合が良い試合であればいいだけの事だと思います。
    女子の選手で男子に負けないパフォーマンスが出来る選手ばかり集めるなら、女子だけの興業も成り立つでしょう。
    女子だから見に来てくれると考える人が関係者にいたとすれば、あまりにもファンの事を知らなさすぎます。
    私の理想は男子、女子で考えないような環境になる事だと思います

  4. queens of the ring より:

    >まささん
    ジョシカクはご存じなくて良かったと思いますよ。週刊プロレスのター山(ターザン山本)さんあたりが震源地のいかにもウサン臭い言葉ですから(苦笑)。
    格闘技で「女子」を売りに出来ないというお話には100パーセント同意です。どうして売れると思う人がいるのか理解出来ません。

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