ボクシングはパンチだけを武器にしたシンプルで明解な格闘技です。
一番明解な勝敗はKO決着、つぎはKO直前にまで追い込んでの大差判定でしょう。
しかし、ハッキリと優劣のつかなかった場合、つまり接戦だった場合はどんな採点になるでしょうか?
普通に考えれば、どちらも力が拮抗していたのだからポイントも近いはずだと思いますよね。しかし、実際には大きな点差がつくことが多いのです。
それはどうしてでしょうか。
ボクシングの採点方法は時代とともにいろいろ変化してきました。各ラウンドを5点満点で採点していた時期もありましたが、そのころは僅差のラウンドは基本的に5-5と採点されました。僅差は基本的に無視されたのです。
それをもっと細かくして現在では10点満点で採点していますが、10点法になっても10-10の採点が多く、やはり僅差は無視されました。
そこで一部では0.5点きざみで10-9.5などという採点法もおこなわれましたが定着しませんでした。
結局、現在おちついているのは、各ラウンドの優勢な方を10点、劣勢な方を9点として、10-9を基本とする採点方法です。
ルール上、明確に10-10の採点を禁止している団体は少ないため「10-10をつけても問題ではない」とも言われますし、実際10-10をつけているジャッジもいますが、現在のボクシング界の常識としてはジャッジは基本的にどんなに僅差のラウンドでも10-9をつけることになっています。
WBCさんは団体トップのコメントとして「権限によりジャッジがイーブン(10-10)のスコアをつけることを禁ずる Several jurisdictions prohibit judges to score even rounds」と発表していますし、WBFed.さんは公式サイトに「イーブンのスコアをつけることは非推奨であり、ジャッジはラウンドごとの勝者を決める努力を払わねばならない Scoring even rounds is not recommanded, the judges must take effort to pick a winner of each round」とかなり強い言い方で記しています。
また、英語圏のボクシングサイトでは「10-9が基本 a typical round is 10-9」という論調の解説が大部分です。
この極力10-9の差をつける採点法には正式な名前は無いようですが、日本では一般的に「マストシステム」と呼ばれたりします。
これは要するに、どんなに互角に見えるラウンドでもどっちかを勝ちにする、という採点方法ですが、これが現在の世界中のプロボクシングの基本と考えて間違いありません。
簡単に言って「ちょっとの差でも1ポイントの差として計算する」「差がなくても差として採点する」というかなり強引なやり方です。
ですから、僅差のような、あるいは差が無いような試合でも、大差のスコアがつくことがあります。
というか、どちらの選手も決定的なラウンドを作れなかった接戦であればあるほど、ジャッジは無理矢理にでも点差を付けなければならないので、見た目の印象とは違った数字になってしまうのです。
はっきりとヤマ場があった試合なら、そこがジャッジ三者のポイントの一致点になりやすく、ある方向にまとまった採点になるのですが、平坦な接戦の場合は各ジャッジがどこに優劣を見いだすかに差異が生まれ、大きくポイントが離れることは珍しくありません。
また、「すこしだけ一方が勝ってた試合なのに」ポイント上は大差になり「圧倒的に一方が勝っていた試合」と同じようなポイントになるのも、無理矢理に点差をつけるシステムの働きです。
女子の世界戦で言えば、見た目は僅差の場合にも98-92のようなスコアになったり、スプリット判定なのにジャッジの間のポイント差が大きく食い違ったりということになりますが、これはすべて僅差のラウンドでも基本的には10-9という採点法から仕方の無いことなんです。
プロスポーツとしては、点差のつかない判定ばかりになるのも歓迎されないのでこのようなシステムになったのでしょうけれども、あまり印象とかけ離れたスコアになるのも考えものですし、難しいところですね。
・現行のボクシングの採点方法は、一方を過大評価するか、あるいは過小評価するかのどちらか。
・結果として、はっきりとした山場のない試合ほど現実離れしたスコアになることがある。
・よって、スコアと試合内容の評価は別物である。
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