ムエタイのヒジ打ちについて、いろんなカン違いをしているひとがいるようなんで少し書きます。
タイではヒジ打ちの主な目的は「切る」ことじゃありません。「ヒジの攻撃は切り合い」なんて書くライターさんを多く見かけますが、違いますよ。
打撃系格闘技なんですから、あくまでもメインは打撃としてのダメージを与えることです。
ヒジ打ちには目的別にふたつの種類があります。ヒジ付近の面積のある部分で打つ「倒す」ヒジ。それから、ヒジの先端を使う「切る」ヒジです。
効かす場合はヒジ周辺の広い部分を使うと打撃エネルギーが脳に伝わりやすく、ダウンやKOにつながります。
切る場合は関節の角を使うと一点に衝撃が集中するので皮膚のカットが発生します。
通常の「倒す」ヒジ、これはどんな試合の第1ラウンドからでも普通に使います。「第1ラウンドからヒジを出してきた!」なんて書く人がいますが、普通の打撃技なんですから当たり前です。
そして、試合の後半の負けそうな時の最後の手段になるのが「切る」ヒジ。これは賞金マッチや遺恨試合、トーナメント、テレビマッチなどの「どうしても勝つべき試合」の時には試合前半からでも出します。
ムエタイはもともと軍隊格闘技ですから、すべての技は相手の戦闘力を奪うためにあります。パンチ、キック、ヒザ、全部そのためにあります。投げもリングじゃなければ大ダメージです。
ヒジ打ちも本当は倒すため、効かすための技です。切る技じゃないです。相手の顔を切ったところで軍隊的にはなんにも意味はありません。血なんか出たって人はいくらでも戦えますから。
試合で、カットされてストップになるのは、まずは、スポーツだからです。切られての流血が目に入ると見えなくなりますので、レフリーは試合を止めます。目が腫れ上がって見えない時に止めるのと同じです。
傷口が大きくなりそうな時も止めます。大きな傷は治療してもまた傷口が開きやすくなるため、将来の試合で不利になります。そうならないように選手生命を考えて止めるのです。
顔を切られても選手自身はダメージを感じてないのでまだまだ戦えます。しかし、今後のキャリアのためには止めるのが妥当なのです。
出血多量で危険な状態になる、なんてことはヒジ打ち程度では考えられません。止めるのは選手の今後の試合への影響を考えてのことです。
ですけど、カットでのTKOには、ショースポーツ、あるいはギャンブル的な意味も大きいのも事実。ヒジカットでの逆転の可能性があることが、勝敗のドラマを面白くする要素ともなっているのです。その意味で、ヒジカットは劣勢側が後半に使うものです。最初から切ったらギャンブルになりません。
例外的に、外人がらみの試合では、一部外人流血マニアの存在によってこの共通理解が崩壊しているためその限りではありません。
外人選手に意味も無く切られた経験のあるタイ人選手は、その後は外人との試合の時は自己防衛のために最初から切りに行くことがあります。
こうしてムエタイのモラルが破壊されていくことは悲しいことです。
ヒジで血まみれ!ヒジで大流血!と煽る記事を書くことは、流血マニアの勘違い選手を作る可能性があるのでやめてほしいです。
最後に、確認の意味で書きますが、ムエタイでは女子だからヒジは使わないなんてことはありません。男子と同じように使います。通常の打撃技なんだから当たり前です。後半に劣勢のほうの選手が切ってくるのは女子でも変わりません。大事な試合ではいつどちらが切ってきてもおかしくありません。
当ブログでは「最初からヒジの角を使うことはない」「最初から切ってくることは無い」という説明なら何度もしていますが、「タイ女子の試合ではヒジ打ちを使わない」「最初はヒジ打ちを出さない」なんて書いたことは一度も無いです。「ヒジ=切る」と思い込んでいる人が誤読しているようですが、QRはそのことは以前から書き分けていますよ。
・一部ライターが書く「ヒジ=切る」みたいな記事は間違い
・ムエタイのヒジにはふたつの種類がある
・タイ人選手はヒジを使い分けて必要な時にしか切らない
・倒すヒジ、効かすヒジは通常の技なのでいつでも普通に使われる
・切るヒジは苦しい時、絶対に勝ちたい時の奥の手
・一部外人には「ヒジ=切ること」と信じていつでも切りたがる流血マニアがいるので注意
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コメント
むかしは肘打ちはKOの技だったんですよ。むかしの肘打ちはもっとこわかったですよ。先日のタイ人の肘はこわかったね。タイ人はやっぱりこわいですね。
肘無しを肘有りは馬鹿にするけど、ちょっと切れるだけで止められるのが嫌で肘無しをやってるのもいるんだよ。
>固い煎餅さん コメントありがとうございます。
むかしといまではヒジ打ちのイメージは変わったかもしれませんね。
切るのがヒジみたいなイメージはあまりにも深く浸透してしまいました。
先日のヨードレックペット選手はこわかったです。こわすぎました。森井選手の回復を願っています。