QRがウェブページを立ち上げようと思ったきっかけのひとつは、ネット上に女子の試合の日本語の記事があまりにも少ないということでした(いまから3年前は実に悲惨な状況でした)。
そしてもうひとつは、今後女子の試合に光があたり始めたときに、都合のいいように過去を書き換えて伝える人が出て来るだろうという危険を感じたためです。
予想通りに女子ボクシングの世界では実際はそうではない選手が「日本の女子ボクシングの草分け」「日本初のプロ選手」「日本人初のチャンピオン」などと紹介され、事実をゆがめる記事や宣伝文句があふれましたが、最近はやっとそのひどさも一段落してきたみたいです。
シュートボクシングではエース格のRENA選手が早い段階から「SBクイーンの先輩たちに負けないように頑張りたい」と発言し、メディアもそのとおりに報道したので、SBには過去に偉大な女子選手がいたことが無視されず、この競技の歴史はゆがめられることはありませんでした。
さて、問題はキックボクシングです。ファンや関係者の間ではこの分野の功労者は熊谷直子選手を筆頭とする不動館三人娘と、同時期のSB選手たち、そのあとを現在につないだのは早千予選手であるという評価が確定していると思います。
しかし、先日、ある大手のスポーツウェブサイトに載った文章はそういった事実を完全に無視するものでした。
* その痛烈な左ミドルキックを見たら、「女子だから」という偏見は吹き飛んでしまう。 (中略) 女子キックのルーツを辿れば、30年以上前に遡る。黎明期は明らかに“色モノ”として扱われていた。全身から殺気を漂わせる神村を目の当たりにしたら隔世の感がある。 *
( * から * まで引用)
http://number.bunshun.jp/articles/-/60736
黎明期は明らかに色モノで、そのあといきなり神村選手だそうです。いや、正確にはそうは言ってはいないのですが、さっと読んだ限りはそのような印象だけが残る文章です。
これはないですね。
女子キック36年の歴史はそんなもんですか?5年前の早千予選手、15年前の熊谷選手はいなかったんですか?いま以上に厳しい戦いをしていた本格派の何人もの選手たちをすべて無視ですか?
痛烈な左ミドルで女子だからという偏見が吹き飛ぶ?そんなのは熊谷選手が当時から言われてましたよ。
神村選手はいま最大級に期待が持てる選手のひとりではありますが、現状では有望格のひとりに過ぎず、過去の名選手にはまだ実績ではひとつも及びません。これからの選手なのです。それが事実です。
新しい選手を売り出したいためにスポットを当てるのはいいでしょう。しかし、そのために過去の選手を否定するような記事をたれながすのは絶対にアウト。
この記事を書いた人は、かつて秋山選手を売り出したいために日本の総合格闘技のヒーロー桜庭和志選手をおとしめる記事を書いてファンから猛烈なブーイングを受けた人です。
新しい選手を売り出したいために過去の選手を否定するというやり方を、彼はいまだに反省していないのでしょうか。非常に残念に思います。
神村選手が「女子だけ大会」などのワクにしばられないでのびのびと男子の大会でも活動が可能である事実は、かつての女子キックの選手たちが男子の大会のなかで確かな実績を作り、信用を勝ち得てきた結果であって、彼女ひとりの才能のみで与えられた特権ではありません。
過去の選手たちが血と汗を流して築いてきた女子格闘技の歴史があるからこそ、いまの選手たちのリングがあるわけですし、ファンも試合を楽しめるのです。
そういった事実を無視し、過去の選手への正当な評価をせず、リスペクトも表さない人というのは、いまの選手へのリスペクトもない人なのだと思います。
業界にはそういう人がたくさんいます。格闘技を好きな人ばかりではありません。そのことを忘れないようにしましょう。
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コメント
ライカ選手がJBC未公認時代に世界奪取した時、大半の記事は「女子ボクシング日本人初の世界チャンプ」でした。某民放のトーク番組にライカ選手が出演した際も、女子ボクシング日本人初の世界チャンプって、紹介されてました。でも、実際は女子ボクシング日本人初の世界チャンプがシュガーみゆき選手なのを忘れられてます。その民放はシュガーみゆき選手が世界奪取した時に、ニュース番組の特集で放送してます。富樫選手がWBC王座奪取した時の大半の記事は、「JBC公認後初の世界チャンプ」「JBC公認後初の主要団体世界王者」でしたが、ごく一部の記事は「日本人女子初の世界チャンプ」「日本人女子初の主要団体世界王者」と、シュガーみゆき選手どころかライカ選手や菊地奈々子選手、池山直選手の存在さえ忘れられてます。例え目立たなくても、存在を消す様な記事は好ましくないです。地味でも日本人初は日本人初ですから。
初めてコメントさせていただきますね。
いったいどなたがこのような記事を書いたのだろう?(まさか橋本さんでも布施さんでもないよなぁと。)とリンク先に飛び、びっくりしました。
わたし自身は、布施さんの秋山問題については大きな不快を持つことはありませんでした。
ですが、こちらの記事のその文章については、非常に残念です。
布施さんといえばGAORAでは全日本キックの解説をつとめタイまで取材に行き、たいていのキックの大会には取材に来ている”キックに熱意のあるライターさん”とわたしは認識していたからです。
確かJPMCかなにかの発足でもその委員会のメンバーでしたよね。JPMCの良し悪しはともかくとして、日本においてもムエタイを、キックボクシングを普及させようという意思の感じられる印象はありました。
そのなかでも、彼にとって女子の存在というのは別物であったのでしょうか。
職業としてライターをやっているからといって、文章に過去との矛盾や語弊を生む表現を含んでしまうことはあると思います。
それにしたって、これは残念です。
ここ1年ほどで急にNumberのwebサイトにて女子格闘技の記事が扱われるようになったと感じているのですが、加速度的に女子格闘技を認知させるためのなにかであり、それゆえの表記なのかと深読みさえしてしまいますね。
長文失礼いたしました。
>H・Fさん
シュガーさんは一時はボクシングマガジン、ワールドボクシングはもとより一般週刊誌、民放テレビ、NHKテレビにまで取り上げられる存在で、いまのどんな女子ボクサー、女子格闘家よりもメジャーでしたよね。
まだどうなるのか不確定ですが、在京某テレビ局が現在のシュガーさんを取材に行ったという話があるようですよ。
>あゆみ@塩研さん
はじめまして。
NumberのWebで女子格闘技の記事が増えているのですか。まったく知りませんでした。
女子格闘技はどうしたって選手の絶対数が少ないですから、急にブームみたいのを作ってもらっても長持ちしないと思うんでちょっと微妙な感じですね。
出来れば深く静かに進行していくような発展が理想なんですが。
ボクシング界の制度的な面での改革などは出来るだけ急いでほしいと思いますが、選手個人、女子格闘技界全体の進歩や成熟に関しては長い目で見守っていきたいなと思っています。
先日友人と電話で話してたら、その話をしてました。
この方が女子キックの歴史を飛ばしてしまっているのはよくないかもしれませんが、神村さんはそこいらの若手とかと一緒にしないでください。二つ世界タイトルをまがりなりにも持っている選手ですから。
布施大先生のブログより
この一枚!
見出し通り、今年の女子ボクシングのベストショットですかね。
http://www.zakzak.co.jp/sports/etc_sports/news/20101214/spo1012141634004-n1.htm
う~ん、インパクトのある一枚だ。
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本当に格闘技ライターなのかな、この感性