キックで有名なあのひとが今度MMAに行くらしい、とか、ムエタイチャンプのあの選手もどうやらMMAに参戦するらしい、とか、依然としてそんなウワサがたくさん流れる今日この頃、打撃系ファンのみなさま、いかがお過ごしでしょうか。
今回は、打撃系選手がMMAにいくときに、問題になることについて書きたいと思います。
と言っても、むかしからのお決まりの「寝技対策」とか、そういうことではありません。技術論は当ブログでは無理ですし(笑)、こんなところでそんなことを読みたい人もいないでしょう。
ひとくちで言えば、MMAにいくときの一番の問題は「打撃の選手は引く力が弱い」ということです。
打撃に使う力は「押す力」。手や脚を前やうしろに押し出すことが、突きや蹴りという運動です。回し蹴りも、バックブローも円周上に脚や手を押し出す運動です。ですから、打撃系選手は普段のトレーニングで主に押す力を身につけています。
これに対し、組み技はほとんどが「引く力」です。相手と組んで逃げられないようにロックしたり、スリーパーで首を絞めたり、相手の腕を伸ばして十字を決めたりする動きは引く運動です。
MMAではこの両方のパワーが必要なのですが、打撃系選手の多くはこの引く力がビックリするくらい弱い人が多いのです。
それは一つには体重制限のせいです。しぼって打撃に必要な筋肉以外の一切の無駄を削ぎ落とした肉体が、打撃系選手のあのボディ。ですから、打撃に不必要な「引く筋肉」はあまりありません。
また、押す力と引く力はまったく反対方向の筋肉が担当しているので、打つ力=押す力を最大限に発揮するためには反対方向の筋肉がじゃまになります。ですから、すぐれた打撃系選手ほど引く力が弱いという傾向があるようです。
ということで、打撃のひとがMMAに行く場合は、いままでは故意に無視していた別系統の筋肉を身に付け、その使い方を学ぶことから始めなくてはなりません。
パンチとキックは出来るからあとは組みを覚えるだけ、という簡単な話ではないんですね。
ある打撃系選手が新しいトレーニングで新しい筋肉を身につけ、MMAの準備をしたとします。その場合、もうそのひとの体は打撃専門だった時とは違うバランスになっています。
新しく「引く筋肉」をつけて体重を増やした場合は、当然もとの階級よりも重くなっていますし、体重を維持しながら「引く筋肉」を付けたのなら、その分「押す筋肉」は減っていることになります。どちらにしても、以前の体ではありません。
ですから、MMAにいくときは、ある意味、もう打撃系には戻らないぐらいの覚悟が必要だといわれています。
だれかがMMAに進出するというニュースを聞いたら、そういう覚悟をしているんだな、と思ってください。少なくとも「新しい技を覚えればいい」みたいな気楽なことではないってことです。
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コメント
首相撲を死ぬほど練習しているムエタイ選手は、引く力も凄いですよ!!
だからといって MMAで勝てるとも限りませんがね(笑)
あ、そのとうりですね。
キックや空手の選手が首相撲を練習するとものすごく疲れるのは筋肉のつき方が違うからですもんね。
タイトルに問題があるのでムエタイの文字をはずさせてください。
ご指摘ありがとうございました。