Boxing
当ブログでは「ボクシングにムエタイ選手を呼ばないで!」と何度か呼びかけています。今回は「ボクシングにムエタイ選手を呼ぶとどうなるか」を今年9月の『ダンガンレディース2』を例にお話ししましょう。
もともとムエタイ王国のタイでは、その存在に押されてプロボクシング環境は無いに等しい状況なので、そこに女子ボクサーをオファーしてもまともな選手はほとんどいないのです。
ちゃんと探せばタイにもごく少数の女子ボクサーはいるのですが、日本人がそれを把握するのは不可能に近いでしょう。
で、体重だけ指定してあとはおまかせで呼んでしまうと、その結果、来るのはほとんどがムエタイの無名選手、あるいはムエタイもしてなさそうな素人さんです。
そんな中で『ダンガンレディース2』ではムエタイでもキッチリ名のある選手が来日。多分、主催者さんがタイ側に強く要請したのでしょう。4人のうち1人はムエタイ元世界王者。1人は世界タイトル挑戦経験者でしたから。
これを見て当ブログは「勝てない」けれども「いままでよりも粘る」、「タイ人もやるじゃない」となるかも、と書きました。
結果はやはりタイ人選手は1人も勝てませんでした。でも、自分からわざと打たれに行ったり、試合を投げ出したりすることは無く、みんな頑張りました。粘りました。
しかし、「やるじゃない」とはなりませんでしたね。
そのことをちょっと振り返ってみましょう。
ペットルークターン選手減点
第4試合 バンタム級 4回戦
◯石川海 いしかわうみ(UNITED)
判定 2-0
×ペットルークターン・モークルンテープトンブリー(タイ)
石川海選手の判定勝利。
(ペットルークターン選手にホールディングで減点1)
ペットルークターン選手はアスリートの基礎やファイティングスピリットは持っていると感じましたが、本当にボクシングは初めてのようでした。石川選手もデビュー戦なので両選手とも良く言えば初々しい、素直に言えば素人丸出しの8分間に。
どちらもクリンチが下手なので、ホールディングと言われればそう見える場面が何度もありながら、ペットルークターン選手だけがホールディングで減点1。それがなければドローになるスコアで、石川選手にとっては拾い物の判定勝利でした。
左だけで戦うドグマイパー選手
第6試合 54.0kg 4回戦
◯若狭与志枝 わかさよしえ(花形)
判定 2-0
×ドッグマイパー・ギャットポーンペット[ドグマイパー・ギェトポムペット](タイ)
若狭与志枝選手の判定勝利。
この試合に関しては事前記事で「ドグマイパー選手は若狭選手を手こずらせるでしょう」と書きましたが、そうなりませんでした。かなり若狭選手の有効打が多く、クリアな判定勝ちという結果に。
ドグマイパー選手はプロでもアマでも何試合かボクシングの経験があるので、この中では一番やるだろうと思っていたのですが。
結論から言うと、ドグマイパー選手は明らかに右の拳をかばっており、試合中一度もまともに右パンチを出していません。左腕一本で戦っていました。それがこの試合の低調さの原因です。
彼女は実はこの試合の19日前にもボクシングの試合をしているのでその時に拳を痛めていたのかもしれません。あるいはその後の練習中だったかもしれません。とにかく右を打っていないので何かの事情があったはずです。
また、19日前のボクシングはTKO負けだったので、本来、この日は試合をしてはいけない選手でした。
第8試合 フライ級 6回戦
×ペッチパヤ[ペッパヤー]・モークルンテップトンブリ(タイ)
KO 第3ラウンド
○チャオズ箕輪 ちゃおずみのわ[箕輪綾子みのわあやこ](元ボクシング日本代表/ワタナベ)
チャオズ箕輪選手のKO勝利。
これはもうボクシング素人VSアマエリートの対戦ですから結果は当然です。
しかし、箕輪選手のボディーが効いていましたね。日本の女子プロでこんなにボディー打つ人はいないというくらい箕輪選手はボディー多いんですが、これはムエタイ選手には特にキツイですよ。
というのは、ムエタイで使われる中段攻撃は主にヒザ蹴りか回し蹴りなので、ボディーは足を上げてのディフェンスが基本。でも、ボクシングでは足を使えません。ボディーパンチの防御なんかしたことないですから、まともに喰っちゃうわけです。
第9試合 スーパーバンタム級 6回戦
×ペッターピー・モークルンテープトンブリー(タイ)
TKO 第4ラウンド
◯後藤あゆみ ごとうあゆみ(ワタナベ)
後藤あゆみ選手のTKO勝利。
この日、一番「え~っ」と思ったのはこの試合です。ペッターピー選手は元ムエタイ世界王者で、非常に強豪なのですが、この試合の彼女はいつもと全然違っていたからです。
上の写真がムエタイの時の彼女。下がボクシングです。構えがまったく違いますよね。
ムエタイではすぐに蹴れるように体重は後ろに置き、背を伸ばして顔を上げ、アップライトに構えます。
ボクシングでは体を伸ばすとボディーががら空きになるので、それを防ぐためにやや前かがみになるのですが・・・それを意識しすぎたのでしょうか。
もともとムエタイ選手はボクシングのようなフットワークを使わないのですが、こんなに極端に前傾してはさらにまったく動けなくなり、身長差もあるので後藤選手のパンチのいい餌食になってしまいました。
選手本人が何か勘違いをして墓穴を掘りそうになる時、それを正すのがコーチのはずですが、ペッターピー選手にはこんな構えを直してくれる人が一人もいなかったわけですね。
基本的にムエタイ選手はムエタイ以外の格闘技についてはほとんど何も知りません。ボクシングも知りません。
「ボクシングの基礎ぐらい常識だろう」というのはタイでは通用しないのです。
ムエタイは「タイ式ボクシング」ではなくてどこまで行っても別競技のムエタイなのです。
だから、ボクシングにはムエタイ選手は呼ばないでくださいね。
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コメント
今回のタイ人の女子プロボクサーの試合のための来日の件については、いろいろだと思いますね。過去に来日したタイ人の女子プロボクサーの試合での成績はクイーン・オブ・ザ・リングさんの言う通りの試合内容となっており、批判するのも無理はないでしょう。しかし、試合のためにタイから来日する女子プロボクサーはレベルの高いボクシングができるとのチャンスだと思って来るはずだ。石川海と対戦したペットルークターン・モークルンテープトンブリーは、その中でも善戦した方だ。ちなみに、彼女は17歳だと聞いていますから、この経験を生かして日本での就労ビザを発行してもらって日本の指導者の下でボクシングに打ち込めば強くなる逸材ではないのかと思われます。
>若鷹さん
この記事は批判じゃなくて説明なんです。
いかにムエタイとボクシングが遠いものかということです。
クイーン・オブ・ザ・リングさんの返事のコメントのように、今回の私のコメント。批判じゃなくて説明という考え方もありだと思う。今までの記事の内容から考えて批判と誤解したのも事実。過去には、今までやっていた格闘技では引退式をしてもらうくらいに結果を残しながら、他の格闘技に転向して以降は以前やっていた格闘技のようにうまくいかなかった事例もあるみたいだ。男子でいえば元大相撲力士で最高位の番付では横綱にまでなった曙。女子でいえばキックボクシングではタイトルマッチにまで挑戦した実績がある林田昌子(はやしだ・しょうこ)といった事例がある。
この関連の話はここまでとして。石川海がプロデビュー戦で対戦したペットルークターン・モークルンテープトンブリーは、石川海を相手に善戦したから拠点をタイから日本に移して再戦させるチャンスを与えるということで、タイや他の東南アジア諸国でやっている女子プロボクサーに夢を与えるというのもありだと思うね。