今はほとんど使われなくなった言葉に「タイ式ボクシング」というのがあります。
多分、英語のタイボクシング(Thai Boxing)の直訳なのでしょう。ムエタイの存在はヨーロッパではかなり古くから知られていたようなので、Thai Boxingもそれなりに古い言葉だと思います。100年以上は昔のことばでしょう。
ここで使われているBoxingはいわゆる「ボクシング」という意味ではなくて「拳法」という意味です。
中国拳法が「チャイニーズボクシングChinese Boxing」、琉球拳法が「リューキューボクシングRyukyu Boxing」などと言われたのと同じ流れですね。ムエタイを表す英語には「シャムボクシングSiam Boxing」というのもあったようです。いずれにせよ、ここでのボクシングBoxingは拳法の意味です。
当時は格闘技の種類を表す語彙が少なく、おそらく英語圏には、レスリング、ボクシングぐらいしかなかったわけで、現代ではマーシャルアーツMartial Artsと呼ばれるものまで、何でもかんでもボクシングBoxingと呼んでいたわけです。
ですから、タイボクシングThai Boxingを「タイ式ボクシング」と訳すのは間違い。正確にはタイ拳法ですね。それならムエタイという意味に使えます。
ムエタイは決して「ボクシングをタイ式にアレンジしたもの」ではありません。全然なーんにもボクシングとは関係がない別の格闘技です。
だから、タイ式ボクシングということばは誤訳なのです。
一方、タイの人が「ボクシング」をなんと呼んでいるかというと「国際式拳法」です。
で、この言葉にヒントを得て、キックボクシングのテレビ解説をしていた作家の寺内大吉さんあたりが「発明」したのが「国際式ボクシング」という言葉。
昭和40年代の日本ではボクシングはすごい人気スポーツで、これを「国際式ボクシング」と呼び、並べて「タイ式ボクシング」とか「キックボクシング」といえば、ボクシングつながりで非常に権威があるように思わせることが出来たのでしょう。
本当は、ボクシングはボクシング、ムエタイはムエタイ、キックボクシングは空手をベースに日本で作られたもので、生まれた背景も技術体系も違うものなんですけどね。
この辺のことはムエタイやキックの関係の人には当たり前の話なんですけど、一般のファンとかボクシング関係の人にはあやふやなことかもしれません。
いつも言ってることですが、ムエタイとボクシングにはなんの関係もありません。だから、ムエタイ選手をボクシングに呼ぶのは本当にやめてくださいね。
全然ボクシングになりませんから。危険なだけですから。
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