観客席視点からの立ち技系女子格闘技

殴り合いではないボクシング

 Boxing

 1974年、モハメド・アリ選手は世界最強の呼び声も高いジョージ・フォアマン選手と戦いました。試合前に「アリは負ける」「アリは殺される」と人々は言いましたが、ロープで身を支えて体力を温存する『ロープ・ア・ドープ』という奇策でKO勝利を手にしたのはモハメド・アリ選手でした。

 敗因を聞かれたフォアマン選手は「負けたのはロープがゆるかったからだ」と答えました。

 数年後、この発言についてフォアマン選手は語りました。「自分のプライドを支えるためにはああでも言うしかなかった。自分を支えるためにはなんのせいにだってしたさ。」

 発言の裏にあるものを結局は白状しちゃうあたりが、フォアマン選手の人間味でしょうね。

 どんな競技スポーツでも、選手の内面には想像を絶するプレッシャーがかかっているのですから、負けた場合には(ときには勝ったときでさえ)精神面にはとにかくケアが必要で、そのためにはいろんな言葉が生まれます。

レイラ・マッカーター選手 2010年、風神ライカ選手はアメリカきっての技巧派レイラ・マッカーター選手(左写真)のタイトルに挑戦しましたが、足を使って動きまくるチャンピオンについて行けず、結果は大差判定負けでした。

 試合後、ライカ選手は「(マッカーター選手は)前に対戦した時よりセコいボクシングになっていた」と言い、コーチの畑山隆則さんは「アメリカのボクシングは地に堕ちた」と言いました。そしてメディアはその言葉を伝えました。

 フォアマン選手と同じです。負けた人が自分を支えるためにはそうでも言うしかないんです。そういう発言は必要なのです。選手が選手であるために。

 これは、善悪ではありません。試練に出会った人ならばわかるはずです。

 でも、メディアがそれをそのまま伝えてしまっては、事実と違う話になってしまいます。負けは負け、勝ちは勝ち、正当なボクシングは正当なボクシングです。マッカーター選手のヒット&アウェイは正当なボクシングです。なんの問題もありません。しかし、メディアはそう伝えませんでした。

 事実と違う報道が積み重なると、人々は間違ったとらえ方をします。「足を使うボクシングは卑怯なんだ」「打ち合うのが本来のボクシングなんだ」というふうに。

 一部には頑強に天海ツナミ選手や宮尾綾香選手のボクシングを否定する人がいるようです。好き嫌いは個人の自由ですが、相手の攻撃をかわして打つボクシングを否定するのは客観的には間違いです。

 「打ち合うのがボクシング」というのは日本や韓国の一部メディアの洗脳であって、ボクシングは打ち合いを前提にした競技ではありません。このことに気が付かないと、世界レベルでおこなわれている試合をちゃんと理解出来ません。

早千予選手 日本のキックボクシング史上パウンドフォーパウンド女子最強の早千予(さちよ/右写真)選手は、あらゆる蹴り技を完璧にこなせるパーフェクトなキッカーでしたが、蹴りに比べてパンチには弱点があると考え、修行のつもりでボクシングに参戦しました。

 本人はボコボコにやられる覚悟だったようですが、彼女の強烈なプレッシャーと、高速でラッシュしながら至近距離で変化するポジションワークに、対応出来る女子ボクサーは日本にはいませんでした。

 ミサコ山崎選手、山口直子選手がノックアウトで敗れ、日本チャンピオンの八島有美選手も一方的に打ち崩されて成す術なく沈みました。

 翌年、早千予選手はアメリカでボクシングの世界タイトル戦に出場。日本のファンは彼女がアメリカでも圧勝することを信じていました。しかし、結果はアメリカのマリベル・ズリタ選手に大差の判定負け。

 地元判定とかそういうことではありません。早千予選手はズリタ選手の徹底的に逃げる作戦にやられたのです。

 ズリタ選手は一発打つと背中を向けるようにしてサッと離れる極端なアウトボクシング。リングの端まで追いつめても、ロープに体を預けて打撃を避けるロープ・ア・ドープ、そしてクリンチ。そんなラウンドの繰り返しで早千予選手は敗れました。2005年のことでした。

 あれから7年。いまでもまだ「足で逃げるボクシングはダメだ」と言う人がいるのは不思議です。

 早千予選手は本来はキックボクサーですから、ボクシングのようなフットワークは使いません。そういう技術が必要でもありません。ですから彼女はその試合を最後にボクシングをやめました。

 しかし、ボクシングが専門の人はフットワークを研究しなければなりません。自分自身も足を使えたほうがいいし、ヒット&アウェイに対する攻略法も身につけなくてはいけません。

 「逃げるボクシングは邪道だ」などと100万回言ってみても勝てるわけではありません。

 ボクシングはロープに寄りかかっても、足で逃げても全然OKな競技です。いろんな戦略や技術を尽くして争う競技です。ずっと昔からそうなのです。「正々堂々と打ち合うのが一番」などという価値観は一般層の興味を引くためにマスコミが作った幻想です。

 K1のヘビー級みたいな足を止めてのボコボコ合戦が好きな人もいるでしょう。それはそれでいいんですが、ボクシングはそれとは違う世界なのです。

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コメント

  1. miklikov より:

    まさしくおっしゃるとおりだと思います。どんな戦い方をしても有効打を多く重ねた方が勝ち。もしくは強い有効打を入れた方が勝ち。これがボクシングの基本です。
    ジャッジには公平な目で判定してもらいたいですね。パッキャオ対ブラッドリーやツナミ対山口は何か違う力が働いたのかと思うくらいです。
    それとは別に、最近はインファイターに対する採点、厳しいと思いませんか?
    名城の世界戦数試合や、内藤対興毅戦、もう少し名城や内藤に採点が流れてもいいと思いましたが・・