観客席視点からの立ち技系女子格闘技
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一般の格闘技ファンのための100の大事なことがら その15 タイ人が最後まで戦わないのはなぜ? リアルライフとアドベンチャーの間

 最終ラウンド、リードしている選手が突然攻撃をやめて両手をヒラヒラさせて踊り出す、こんな光景をムエタイファンならどこかで見たことがあるでしょう。

 これはセコンドから「もう勝ったから充分だよ」というサインが出たということです。それで、嬉しさのあまり踊り出したのか、残っている時間になんにもしないで突っ立っているわけにもいかないのでファンサービスでやっているのか、そのへんは分かりませんが(笑)、とにかく「もう勝ったから戦わないよ」という意思表示なんですね。

 そんなタイ選手を見て「?」となる人は多いでしょう。

 ムエタイは死者が出るのも日常茶飯事の地獄のような格闘技ではなかったのか?食べるためのハングリー精神でいっぱいの情け無用の弱肉強食世界じゃなかったのか?

 それはそうなんですが・・・死人がたくさん出ていたのは数十年前の話で、それは選手と関係者とムエタイ自身の変化によって今は昔の話になっています。

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 貧しさゆえに倒し合う弱肉強食の世界というのもウソではありませんが、小さいときから青年期までずうっと極貧なわけでもなく、プロになってからは強い男子選手はムエタイでご飯が食べられます。

 日本のプロボクサーやプロキックボクサーのほとんどが競技収入では生活出来ないのとは大きな違いで、こうなると「貧しさ故の」という考え方はタイのプロでは場違いだと言えると思います。

 以前にご紹介した『リトルファイター 少女たちの光と影(バッファローガール)』という映画に登場したペットとスタムというふたりの女子小学生は本当に貧しさから家族を救おうとして戦っていましたが、いまも選手としてやっているかはわかりません。でも、たぶん、フルタイムの選手としてはやってないでしょう。

 というのも、本当に貧しい家の子供たちは成長して中学を出たら、ムエタイじゃなくて、ちゃんと就職したほうが生活が安定しますし、女子選手には男子のようにジムに住み込む制度が無いのです。

 もちろん、働きながら少しでも多くの収入を得るために戦い続ける人もいますけど、当ブログで取り上げているタイの女子ムエタイ選手の多くは高校生か大学生です。彼女たちは特に貧困生活をしているわけではありません。しかし、決してムエタイは遊びではなく、ファイトマネーで学費を払っていたりするのです。

 つまり、多くの女子選手は普通の生活をしている普通の女の子ですが、実質上ノーギャラに近い状況でも格闘技をやめない日本の女子選手たちとは違って、タイの女子選手にとってファイトマネーは大事なものです。1万円でも2万円でも本当に大切なお金です。

 日本の4回戦ボクサーは1試合の手取りが3万円あるかどうか。それ以外の格闘技も似たり寄ったり。ハナからあきらめて別の仕事を持っているわけですが、タイの男子選手はムエタイが職業です。

 ルンピニーとかラジャダムナンで名前が知られた男子選手はファイトマネーは30万円以上になるらしいですが、生活は出来ても贅沢は出来ない金額です。

 それで食べてると言えば聞こえはいいですが、逆に言えば、戦い続けないと収入がありません。

 日本のボクサーはKO負けすると体調回復のために3ヶ月の休養が義務づけられますが、タイではそんなに休んだら食べていけないのでKOされても1ヶ月で試合復帰です。

 しかし、無理な復帰をしたら試合どころか命の危険もあります。そのことはみんな分かっているので、ムエタイでは無駄に相手をボコボコにはしません。勝てばいいんです。

 日本の選手は「いつか世界チャンプになってあのベルトを腰に巻く」という夢に向って挑戦しているので、たとえボロボロになっても燃え尽きるまで相手に挑んでいきますし、相手もそれに応戦します。その「挑む」姿勢をお客さんも喜びます。選手もお客さんも夢に向って一緒に旅立っている感覚になるし、それは青春の挑戦、ビッグアドベンチャーなのです。

 一方、タイの選手にとっては一戦一戦は仕事であり、リアルライフなんです。たいていの場合、ひとつかふたつ先ぐらいまでの試合予定は入っています。だから、この試合にのめり込み過ぎて次の試合に影響を残すわけにはいきません。次の試合にいい動きが出来なければ、プロとしての自分の評価が下がることになり、それはその試合を組んでくれたプロモーターやファンを裏切ることでもあります。

 もちろん彼らも血みどろの極限マッチを見せることがあります。それは賞金付きのビッグマッチやテレビマッチ、トーナメント、絶対に負けられない遺恨試合など、プロとしての飛躍点になると判断した試合の場合です。その時はまったくセーブしないフルパワーを見せます。これがかれらのプロとしての考え方なのでしょう。

 日本とはずいぶん違いますけど、これも正解だと思います。

 来日したタイ選手が一番怖さを見せるのはタイ国王の写真をリングに持ち込んでいる試合。それは「何がなんでも勝つ」という意思表明です。そんな試合は一瞬も見逃さずに注視しましょう。絶対にすごいです。

*タイの選手にとってはファイトマネーは重要な収入。
*日本の選手は試合以外の収入で生活している。
*タイの選手にとって試合を多くこなしてより多く稼ぐのがプロ。
*日本の選手にとっていまは稼げなくても将来の栄光に向って戦うのがプロ。

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