このシルエットを見てほとんどの人は『ブルース・リーだ!』と一発で分かるでしょう。
ブルース・リーさんはどの映画でもこんな飛び蹴りをしてますから。『ドラゴン危機一髪』、『燃えよドラゴン』、『死亡遊戯』でも。
しかし、ブルース・リー夫人のリンダさんは「ブルースは飛び蹴りなんてしませんでした」「ブルースが飛ぶのは映画の中だけです」と言っています。
格闘技ファンなら「そりゃあそうだよな」と思うでしょうけど、映画ファンは「え?そうなの?マジで?」となるかもしれません。
それも無理はありません。ブルース・リーは飛び蹴りをしなかった、なんて情報はあんまり出回っていませんから。実際、「ブルース・リー」「飛ばない」「飛び蹴りしない」で検索してもそういう内容はヒットしません。
でもそれは不思議なことではありません。たぶん、単純に、あまり調べるひとがいないネタだから、それを書く人もいないのでしょう。
格闘技ファンなら飛び蹴りは実用性が低い技だとわかっているし、映画ファンは武道家としてのブルース・リーの技には興味を持たないでしょう。その結果、需要の無い情報(ブルース・リーは飛ばない)は提供されないんです。
では、ブルース・リーさんに関して、ファンが興味を持っていることなら情報があるのでしょうか?
それも、そうとは限りません。
たとえば、熱心にブルース・リーさんについて調べ、集めた情報を大量に載せている某サイトに「彼がどうして徴兵されなかったのかはナゾ」と書いてあります。
たぶん、管理人さんは若い人なのでしょう。むかしからのファンならナゾではないのに、彼にとってはナゾなのです。
「ブルース・リーはなぜベトナム戦争に行かなかったのか?」と検索すると、たしかに、ほとんどヒットしません。ナゾに思うのも仕方ないでしょう。
招集された軍のキャンプで反抗的な態度を取って軍務不適格あつかいになった、というエピソードはネットにはほとんど載ってないんですね。
夫人が「ブルースはベトナム戦争には行きませんでした」と語った1970年代のアメリカでは「ベトナム戦争は間違いだ」「アメリカ軍はベトナムでひどいことをした」という反省が非常に強く人々のなかにあったので、徴兵を拒否したモハメド・アリさんはヒーローでした。だから、リンダ夫人のそういう言葉もふつうにメディアに流れていたのです。しかし、21世紀に入って流れは変わりました。
911以降のアメリカでは「対テロ戦争」が国家のテーマになり、「愛国者法」が施行され、「徴兵忌避」なんて話題はメディアでは嫌われるようになったのです。
ブルース・リーさんがベトナム戦争に行かなかった話は、いまの時代には歓迎されないのです。
ネットに情報が無いのをいいことに「リーは身長制限にひっかかって徴兵検査を落ちた」なんて書く人もたくさんいますが、妄想は自分ひとりの脳内にとどめてほしいものです。
第二次大戦で活躍した有名なアメリカ軍日系部隊の平均身長は160センチで、150センチ台のひともたくさんいました。これは歴史上の事実です。170センチのリーさんが落とされるなら日系人部隊の存在をどうやって説明するのでしょう?
実は、アメリカ軍には基本的に身長制限はありません。いろんな人種で成り立っているアメリカの軍隊に身長制限があったら、人種によって不公平になるじゃないですか。だから、身長制限はないのです(兵科によって適正身長はあっても、軍全体としてはありません)。
最近は、自分の探す情報がネットに見つからないと、「おかしい、情報が隠蔽されている」と言う人がいますが、隠蔽されているんじゃなくて必要とされていないので供給されない、のかも知れません。
自分の知らないことについて「ソースのリンクを貼れ」と言う人もいますが、ソースがすべてオンライン化されていると思い込むのはかなり重度のネット依存症です。
きょうもいろんな情報がネットに書かれたり、消されたりしています。書かれる理由もあれば、消される理由もあるのでしょう。
その理由を生み出しているものこそが現実です。
ネットは形が整いはじめてやっと10年。まだまだ薄っぺらい世界です。「情報」が「今」そこにあっても、無くても、それは一時的な現象です。ネットはいろんなものに揺り動かされている現象にすぎないのです。
何かの圧力や影響や無関心でいろんな情報が浮かんだり沈んだりしているのです。
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