「女の子は馬鹿だから嫌い!もう教えない!」
熊谷直子選手のファンなら誰でもこの言葉に覚えがあると思います。熊谷選手の師匠である不動館名取新洋(なとりしんや)館長が女子選手を叱る時の決まりコトバでした。
選手がマズイ試合をしたとき、よくない態度をとった時などにこのコトバが飛びました。名取館長の叱責は厳しく、当時、人気最高だった熊谷選手やその後輩たちが泣きながら土下座しても館長は選手が理解するまで厳しい言葉をやめないのです。
そのようすは格闘技雑誌で記事になったり、試合ビデオに収録されたりして、ファンのひとたちもよく知っていました。
勝った試合でも叱り飛ばされる熊谷選手の姿はショッキングでした。
日本の女子格闘技の父とも言うべき名取館長が「女子選手を嫌い」なはずはありません。しかし、それでも館長がこう言うのは「女子選手は男子選手よりも厳しい立場にいる」ことを分からせるためでした。
格闘技の大会に女子が出るということは、そのぶん出られない男子選手がいるということです。出られない男子は当然女子選手をよく思いません。女子選手のいないジムの人たちも同じこと。彼らは「女子選手がいなければ自分たちの出場枠が増える」と考えます。
これはキックでも、ムエタイでも、ボクシングでも、総合格闘技でも、なんでも同じ。何かのきっかけを見つけて女子を閉め出したい人はいつでもいるのです。ですから、女子は男子よりもいい試合をしなければなりません。
女子格闘技のパイオニアと言われる人たちは、そういうことを分かっていたので、みんなものすごい覚悟で戦っていました。ひとつの試合を落としたら次はカードを組んでもらえるかどうか分からない、そんな気持ちで戦っていました。
今はそんな選手はいないのでしょうか?
ここ数年の女子格闘技はものすごく軽く見えます。
簡単に負けるチャンピオン、防衛出来ないベルト、勝手に引退宣言、いつのまにか復帰。そういう格闘技が尊敬されたり権威を持ったり出来ますか?
「しょせんは女だと言われるぞ」という名取館長の声が聞こえる気がします。
でもこれは、選手サイドだけじゃなくて、まわりの男たちにも問題がありますね。
たった1回タイトルをとっただけでまるでお姫様みたいに扱ったり、しばらく遊ばせたり、かませの挑戦者を用意したり。キックもボクシングもやっていることは皆同じ。これじゃあ選手は簡単に腐ります。人気が出るわけがありません。
アスリートの旬の時間はいつまでも続きません。いい時にガンガン試合させて、勝ったり負けたりさせて、厳しく評価して、経験値積ませないとスターなんて出ないです。スターの出ないプロ競技は消えるのみです。
日本の女子の団体は、キックも、ボクシングも、総合格闘技も、次々にうまれては消えていきました。いまある女子団体や女子出場枠もいつまであるか保証はないです。
そのことを分かっている人はどれだけいるんでしょう。
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コメント
いい記事です。いやほんと。
女子選手全員に読んでもらいたい記事ですね
名取館長は、亡くなられたのですね。
http://www.adbusiness.co.jp/guestbook/
偉大な方だったと思います。
残念です。
どおしたら日本の女子キックボクサーが強くなると思いますか?
マイナスの状態(反対)からここまで続けられてこられているから・・どうせなら世界一が日本であってほしいしもっともっとメジャーになって選手達にも稼がせてあげたいです。
名取館長にはお世話になりました。いつ亡くなられたのでしょうか…。ご挨拶に伺いたかったです。
熊谷選手はどうされているのでしょうか?
みなさん、コメントありがとうございます。
>boxさん
熊谷さんは一昨年からケーブルテレビのJ-girls中継の解説をされています。