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ラウンド制/ポイント制であることを無視したイメージ論 天海ツナミ vs 山口直子の解説で混乱する表現を考える その3 ボクシングマガジン藤村幸代記者編

 Boxing

 藤村幸代記者のボクシングマガジンの記事は、ツナミvs山口戦のちゃんと押さえるところは押さえていてその部分は良心的ではあります。

 両選手のことをよく知らない人は、ディフェンスのツナミ、強打の山口、みたいに言い切りますが、両選手とも一戦ごとに試合スタイルに変化があるうえ、トップ選手にふさわしい対応力を備えていて、先入観で割り切れるような単純なファイトはしません。そのことを藤村幸代さんはわかっています。

 山口選手は豪打のパンチャーではあっても大振りのファイターではありませんし、ツナミ選手のパンチ力もなかなかで、技術偏重のボクサーではありません。初防衛時のイギリスから来た挑戦者は目をゴルフボール大に腫らして帰りましたし、藤本りえ選手、ペッチサイルーン選手はTKO、今回の山口選手も序盤から顔を腫らしました。

天海ツナミ vs 山口直子

 今回は、ツナミ選手はいつも以上にパンチを避ける技術、かわす場面を見せていたと思います。しかし、ディフェンスはポイントにはなりません。もちろんそのことはボクシングの大前提ですから、ツナミ選手はたくさんのパンチを当てました。藤村さんの書いているとおり「試合を通じて有効打の数では明らかに天海が上回っていた」のです。

 ここまではわたしたちQRと藤村さんの見方は何一つ変わりません。ところがこの先です。「ジャッジはフットワークの最中に放つ天海の小気味いいクリーンヒットより、山口のパワーヒットのインパクト、そして前へ出続ける姿勢を評価したのだろう」「(山口選手の)100%のパンチが120%の威力として印象付けられた」と藤村さんは結論付けます。

 たぶん「前へ出続ける姿勢」というのは前進しながら打ち続けたことを言っているのでしょう。それで攻勢点(手数への評価)があったのだろうと。しかし、以前の記事と重複になっちゃいますが、攻勢点というのは有効打の無い凡戦の時には判定の材料にはなりますが、きちんと有効打のある今回のような試合の時には大きな要素にはなりません。

 「試合を通じて有効打の数では明らかに天海が上回っていた」という内容の試合であるなら「出続ける姿勢」は試合を左右しません。ボクシングの判定では有効打よりも上に来るものはないからです。

天海ツナミ vs 山口直子

 さて、「天海の小気味いいクリーンヒットより、山口のパワーヒットのインパクト」を評価したのだろうという説明は、藤村さんに限らず、今回の判定を擁護する人がよく口にすることですが、それにはひとつの大きなゴマカシがあります。

 原則論として、多数の軽いパンチよりも1発の重いパンチのほうが「有効」であると判断されることはあると思います。相手により多くのダメージを与えるのが格闘技としてのボクシングの目指すものですからそれは当然のことです。

 しかし、1発の重いパンチが評価されるのは、その1ラウンドの中だけのことです。次のラウンドが始まればまたゼロからパンチを積み上げる競争の繰り返しです。

 10回戦はそのゼロからのヨーイドンを10回繰り返すものです。そして、どちらが多くのラウンドで優勢だったかで試合は決まります。後半にいくら怒濤のラッシュをかけても、前半のラウンドを落としていれば試合には勝てません。

 ボクシングはラウンド制のスポーツなのです。判定はラウンドごとにおこなわれます。ですから、ライターの人の文章にもラウンド制の概念がなくてはいけません。

 ところが「天海の小気味いいクリーンヒットより、山口のパワーヒットのインパクト」を評価した説のひとたちでラウンドごとのポイントをきちんと説明する人はひとりもいません。これが大きなゴマカシです。

TSUNAMI vs YAMAGUCHI

 この図を見てください。小さな印がジャブなどの軽打、大きな印がある程度インパクトを持ったパンチです。赤がツナミ選手、青が山口選手。空振り、ガードを叩いたもの、パリーで払い落とされたものは含みません。つまり、これが有効打の数です

 テレビの録画をカウントしたものですので正確性には限界がありますが、だいたいの試合の流れはおわかりいただけると思います。

 この図に表れた有効打だけを見るなら、1~7まではすべてツナミ選手の優勢、8と9が山口選手が優勢。10はツナミ選手ですが山口選手にカウントする人もいるかもしれません。そう見てもこの図では97-93で天海ツナミ選手の勝ちです。

 実際のジャッジの採点は2ラウンドまでが全員ツナミ選手、3と4が割れますが、5ラウンド以降は全員がほとんどすべてを山口選手につけています。

 しかし、5~7の三つのラウンドは有効打の総数で完全にツナミ選手が上回っています。パワーヒットと藤村さんが呼ぶパンチもツナミ選手のほうが上回っていて試合中盤で山口選手のほうにポイントが入る要素はありません

天海ツナミ vs 山口直子

 ここにあげた図を信じられない人は実況の音を消して試合をもう一度見直してみてください。山口選手は初回から最終回までガンガン手数を出していますが、そのほとんどが空を切って相手にヒットしていません。ギリのところでツナミ選手がかわしているパンチも無数にあります。

 このツナミ選手のディフェンスはポイントになりませんが、同じように山口選手の当たらなかったパンチもポイントにはならないのです。

 ここを故意なのかヒットしているとの見間違いなのか、当たらなくても手を出してればポイントになるとの思い込みなのか、判定擁護派の人たちは事実を見ていません。山口選手はこの試合を通して命中率が非常に低く、普通に採点するならジャッジ全員が97ポイントになるような有効打はないのです

 どんなに山口選手寄りに採点してもドローも厳しいかというのが実際の試合内容だったと思います。たいへんいい試合ではありましたが、勝者は厳然としてツナミ選手だと思います。

 試合全体を通してなんとなく印象で語るのではなく、1ラウンドずつ別々にキチンと評価しなくてはボクシングライターとしては問題があるでしょう。いちいち全ラウンドを語れとは言いませんが、ラウンドの概念を吹っ飛ばして全体の印象論で勝敗を決めつけるのは正当な見方ではありません。

 有効打の数でラウンドの優勢を判断し、優勢ラウンドの数で全体の勝敗を決するのがボクシングですが、そういう面をまったく無視した記事がボクシング界にあふれている現状は悲劇的な光景に思えます。現実の話を抜きにしたイメージ論はもうたくさんです。

 この試合の模様はスカイAさんにて再放送の予定です。
8月29日(水)15:00~17:00

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コメント

  1. miklikov より:

    試合の動画をみた上でコメントします。
    明らかにツナミの勝ちです。97-93だと思います。
    ジャッジは全員、ライセンス停止および再教育の必要があります。それ以上の憶測は言えませんが・・・
    ボクシングマスコミが結果ありきの評論をするのはいつものことなので、何も期待してません。

    ツナミは、メキシコでバンタム級の王座を取ってスッキリしてきてほしい。

  2. miklikov より:

    ただ、ボクシングマスコミがこの様な不正確な記事を書き連ねていると、世間一般の素人さんからボクシングという競技そのものが懐疑心をもってとられかねない。
    業界の病理ですね。もう何十年も治ってない。

  3. SZK より:

    文句なく天海選手の勝ちです。再戦には興味ありません。miklikovさんに同意です。メキシコで勝ってほしいし、どこの団体でもいいからたくさんの活躍をのぞみます。

  4. より:

    もしかして・・・の域を出ない話ですが。

    もし、ジャッジ達が
    「ギリのところでツナミ選手がかわしている無数のパンチ」の相当数について
    「当たっている」と認識していたとしたら・・・???

    まあそれが原因なのかどうかを見る上でも
    「当たったと見間違えうるくらいぎりぎりのパンチ」が
    各ラウンドにいくつあったか、ということを見ないといけないですけどね。

  5. queens of the ring より:

    もしもジャッジの人たちがツナミ選手がかわしたパンチを見分けられないのが誤審の理由としたら、長谷川選手のヘッドスリップなんかわからないでしょうね…。それは杞憂であってほしいです。

  6. M より:

    私は生で試合観戦しました。
    当然の如くツナミ選手が手堅く防衛したものと思いましたが・・・。
    判定の酷さに呆然。
    試合内容は最高の世界戦だったのに・・・。
    女子ボクシングもとうとうここまでかも、とさえ感じてます。

    とある記者から聞いた話ですが、試合前、山口選手に「次は君の番だから、頑張ってね」と、一人だけやたら長く激励送っていたコミッション関係者のこの言葉が、この判定の裏を物語っているように思えてなりません。

  7. miklikov より:

    「亀田判定」を笑えない・・・ランダエタ戦や内藤戦、デラ・モーラ戦、マナカネ戦に匹敵するインチキ判定だと思いました。
    無論、ツナミや山口に責任はない。救いは、亀田のふざけた試合と比べて、この試合の質が極めて高かったことです。

  8. akino より:

    よく分かんなかったボクシングの判定がいろいろわかってきました。ありがとう。

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