観客席視点からの立ち技系女子格闘技
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ヒジで切っても武術的には意味がない ヒジ刀は使いどころが大事 一般の格闘技ファンのための100の大事なことがら その31

 2012年3月、WPMF世界タイトルマッチ、アズマ選手のパンチでダウンを喫して劣勢に置かれたサーオシン選手。

サーオシンvsアズマ
 ダメージは深く、絶対絶命のピンチのサーオシン選手が、ヒジ打ち一閃!流血するアズマ選手・・・さらにヒジ刀で再度流血のアズマ選手は無念のTKO負けとなり、世界王座を手に入れることはできませんでした。

 これがQRの記憶に残る最も鮮烈なヒジ打ち決着のひとつです。

 でも、ヒジで顔面を切られるとどうしてレフリーストップになるのでしょう?

 それは、ボクシングのパンチでカットされてのストップと論理的には同じです。顔面に深い切り傷がつくと、たとえそれが治癒しても、その付近が少しのことで切れやすくなってしまい、以降の選手生活に支障が出ます。流血が目に入ると不利ですし。

 ですから、傷がある程度以上に深くなりそうなら、その時点で試合を止めるのです。そうやって競技者のその後の選手生命を守るわけです。スポーツ的な配慮ですね。

 しかし、ムエタイはもともと軍隊格闘技であり、古武術ですから、ヒジ打ちは相手を倒すためのものであり、切るためのものではありませんでした。

 武術的には相手に切り傷を負わせても無意味です。戦争や決闘にはレフリーストップはありませんから。

 切るヒジの技術は、おそらくスポーツ化されてから開発されたもので、倒すヒジこそがムエタイの伝統的な技でしょう。

 でも、外国人にはそのような価値観は分かりにくいらしく、切るヒジを必要以上にありがたがる人が多いようです。YouTubeのムエタイ動画のコメント欄にも「この選手たちはどうしてエルボーを出さないのか?」なんて書いている外国人が結構います。ヒジ打ちはムエタイの華、みたいに思われているのかもしれません。

 ムエタイでの切るヒジは冒頭の試合のように、追い詰められた選手が最後に出す隠し技、奥の手みたいなもので使われることが多く、最初から切る目的でヒジばかり出すタイ選手はほとんどいません。

 もちろん、それをやっても反則ではないのですが。

 だから、西洋人的には「なんでダメなの?」となるのでしょうけど、タイのプロのムエタイファイターはひと月にいっぺんか、あるいはもっと多い回数で試合をする必要があります。いちいち顔面をカットしていたら、お互いに次の試合に支障が出ます。

 だから、タイではピンチの時の逆転技、どうしても負けられないときの最後の一手としてヒジ刀は使われるのであり、最初から切る人はいません。

 日本の相撲でも外人力士が張り手ばかり出してヒンシュクを買うことがありますが、彼らにとっては「反則じゃないのに、どうしてダメなの?」という感じだと思います。

 でも、15日間ぶっ続けで戦う大相撲が、毎日ヘヴィー級の張り手合戦になったら、力士の選手寿命はとても短くなるでしょう。

 そういうふうに説明すれば分かってもらえるかもしれませんが、タイにしろ日本にしろ、アジア人て「言わなくても分かるよね」って体質ですから、西洋人には理解しにくいと思います。

 動画はシルヴィー・フォン・デューグラス・イトゥー選手(アメリカ)の日常を記録したごく普通のテーマのものなんですが、彼女の左目周辺やその上の縫ったあとが痛々しいですね。わかりにくいけど額の中央や、髪の生え際あたりにも大きな傷がいくつもあるんです。

 タイの女子選手でここまでたくさんの切りキズのある人はちょっと記憶に無いですが、シルヴィー選手の場合、相手の顔面を切りに行くことが多いので反撃を受けて自分もここまで傷だらけなのでしょう。でも、ご本人は気にしていません。むしろ、切り合いを喜んでいる感じがあります。

 最近は、古傷が増えすぎて普通のヒジやパンチを受けても切れやすくなったみたいで、毎試合のように流血しているようです。彼女がアップする最近の写真や動画は流血率高いです。ふつうの選手ならそうはなりたくないでしょう。

 一方、タイ側では自分のとこの女子選手を切りにくる可能性が大きい相手とは戦わせたくないわけで、最近は彼女はいちど戦ったタイ選手とのリマッチを断られたりしているようです。

 イトゥー選手はムエタイの技術やルールはとても深く理解しているようですが、ルール以外のこういうところは、タイ人とファラン(白人系外国人)の価値観のズレというか、そんなものがあると思います。

 とにかく、タイの女子は切られれば切り返しますが、最初から切り合ったり、切ることに価値を求めるヒジマニアはいないんで、その辺のところは本場タイの価値観を尊重するべきでしょう。

 メディアのみなさん、相手の顔面を意味なく切っても勲章ではありませんので、そのへんをちゃんと説明しましょう。ヒジで切ったからすごい、みたいな伝え方は良く無いです。

 勝負の時、自分を守るべき時など、切るべき時に確実に切りに行ける選手は良い選手ですが、切るべき時の見境がつかない選手はノーグッドです。

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