観客席視点からの立ち技系女子格闘技
スポンサーリンク
スポンサーリンク

一般の格闘技ファンのための100の大事なことがら その18 ふつうの格闘技選手がボクシングをやってみた


K1ルール ティメア・ベリク VS イリン・ラーチェ 面白くないので全部は見ないでいいです。

 当ブログでは「タイ人選手はもうボクシングに呼ばないで」と切実な願い(!)を繰り返しております。

 というのも、タイではボクシング(特に女子)は不人気種目で、ほとんどプロ選手はいません。ですから、ボクシングをやるときにはムエタイの選手を借りてきます。

 しかし、ムエタイジムとしては良い選手はムエタイで使いたいですから、ボクシングに貸し出すのは中級からそれ以下の選手です。

 で、貸し出された選手としては、ムエタイとボクシングの基本的な技術の違いから、いくら頑張っても良い結果につながることはほとんどありません。

 技術的な違いとは、たとえば構えです。

 たいていのボクシング選手は前屈みですが、ムエタイでその構えをするとヒザが飛んで来ますし、簡単に引き倒されてしまいますので(ムエタイでは倒しも高ポイント)、タイの選手はそれを避けるためにボクサーに比べるとずっとアップライト。しかし、その構えはボクシングではボディーを打たれます。

 また、ボディーを狙われないようにボクシングではなるべく体をハス(斜)に構えますが、ムエタイでは蹴りを出しやすいように正面に構えることが多いです。

 ムエタイでは相手の蹴り足を常に視野に入れる必要上、ガードの中央をあけるのが普通。ボクシングではアゴ打たれちゃいますね。

 このように、もう、試合開始の姿勢から違いますし、蹴り、ヒザ、ヒジ、つかみが禁止のボクシングでは、ムエタイのコンビネーションは全然使えません。

 これでいったいどうやって勝てと?

 いや、勝ってる選手もいます。

 キックとムエタイの両方で世界王者だった『キックの鬼姫』こと早千予(さちよ)選手はボクシングでも世界王者でしたし、早千予選手とキックで戦ったつのだのりこ選手もOPBF東洋王者、ルシア・ライカ選手はキック/ムエタイで戦う相手がいなくなってボクシングで世界王者になりました。『怒りの鉄拳』と呼ばれたジェリー・サイツ選手もキック、ムエタイ、ボクシングのどの競技でも強かったですね。ホリー・ホルム選手やレイラ・マッカーター選手、ジャッキー・ナヴァ選手なども元々はキックボクサーです。

 でも、この人たちは例外なんです。ふつうの選手ではそうはいかないんです。

 この人たちの影に、たくさんのキック、ムエタイ、空手出身の選手が、ボクシングで通用しなかった歴史があるのです。

 たとえば、いちばん上に貼った動画のティメア・ベリク選手(ピンクのコスチューム)はハンガリーのムエタイ選手。これは昨年秋の試合です。

 ベリク選手はもともとムエタイなのでこのK1ルールの試合では苦戦し、判定負けでしたが、特に悪くはない選手だと思います。良くもありませんが。ふつうですね。

 しかし、今年3月にボクシングの試合に出たところ、最低の試合になってしまいました。

マリア・リンドバーグ VS ティメア・ベリク 2016年3月20日

 相手に打ち返す時、続けてキックのモーションに入ってしまって観客席失笑という試合スタート。その後も、右ストレートのあとに何につなぐか迷って体が正面に向いたままのところを打ち込まれるなど、素人レベルの惨敗。

 相手がWIBA世界王者のマリア・リンドバーグ選手だということもありますが、これが「ふつうの格闘技選手がボクシングに出たときのふつうの結果」なのです。

 ふだんボクシングをしないでほかの種目に出ている選手は、ボクシングのリングでは基本的に通用しません。

 しかし、QRは、ほかの種目の選手がボクシングに出るなとは言いません。それは、上にあげた早千予選手やルシア・ライカー選手のような例外的なスゴイ選手があらわれる可能性があるからです。

 そのような選手が殴り込んでくればボクシングも盛り上がります。だから、他種目からの参入は規制するべきではありません。実際、ほとんどの国ではそんな規制はありません。

 しかし、日本ではJBCさんがほかの種目の選手に対し、それをやめない限りボクシングのリングには上げない、という世界でも類を見ないルールを持っているので、他競技の格闘技選手がボクシングをすることはありません。

 その一方で、JBCさんは、タイ選手に関して彼女たちがボクサーではなくムエタイ選手だということを知りながら来日を認めている(JBCさんはマッチメーカーや関係者に対して「招聘の際はムエタイの戦績も提出せよ」と要求)という矛盾。

 最初に書いた通り、タイの優れた女子ムエタイの選手はボクシングでは来日しませんから、いくら中級以下のムエタイ選手を呼んでもろくな結果にはならないのです。

★ほかの競技の選手がボクシングのリングに上がっても戦えないのがふつう。

★しかし、ふつうを越えた例外的な選手がときおりいるので、他競技の選手のボクシング参入を規制してはいけない。

★日本ボクシング界の最大の外国人選手供給国であるタイには女子プロボクサーは事実上いない。良いムエタイ選手はムエタイで忙しいので、来日するのはムエタイの中級以下。

関連情報 一般の格闘技ファンのための100の大事なことがら その16 MMAは「実戦的」? 戦闘とスポーツの違いを考えてみる

関連情報 一般の格闘技ファンのための100の大事なことがら その15 タイ人が最後まで戦わないのはなぜ? リアルライフとアドベンチャーの間

関連情報 一般の格闘技ファンのための100の大事なことがら その13 ブアカーオはバンチャメーク? 選手名はローマ字読みでオッケー?

関連記事 一般の格闘技ファンのための100の大事なことがら その12 ムエタイの判定でパンチのポイントが極端に低いのはなぜ?

関連記事 一般の格闘技ファンのための100の大事なことがら その10 セコンドのタオルは試合を止めるためにある

関連記事 一般の格闘技ファンのための100の大事なことがら その9 リングネームの形式には基準がある

関連記事 一般の格闘技ファンのための100の大事なことがら その3 ミリオンダラー・ベイビー(ファイトマネー100万ドルの女子ボクサー)は実在した

関連記事 一般の格闘技ファンのための100の大事なことがら その7 ベルトはタダではもらえない プロの王座は人気とおカネと実力が相関する世界

関連記事 一般の格闘技ファンのための100の大事なことがら その6 ライターが選手を呼び捨てにするのは文化的に見てどうなのか

人気ブログランキング にほんブログ村 格闘技ブログ キックボクシング・ムエタイへ

コメント

  1. 北国の男 より:

    先月の沖縄での大会に吉田実代選手が出場していましたが、確かずっと病気だったと記憶しています。
    再スタートされるのであれば、ぜひとも他の格闘技からの転向者としては異例の(?)活躍を見せて欲しいです。

    転向といえば林田昌子さんは残念でした。
    本人が納得しているのなら良いですが、キックを続けていた方が…と考えてしまうのです。

  2. queens of the ring より:

    >北国の男さん コメントありがとうございます。
    吉田実代選手のブランクのあいだは情報が少なくて心配したひとも多いと思いますが、結婚、出産、育児のためだったんですね。ツイッター@miyobluedogで幸せな母娘の姿を披露してますよ。
    林田昌子選手はボクシング転向後の勝てない時期には見ているこちらもつらかったですが、勝利して坂本博之会長と喜びをかわしている姿を見て「これで良かった」と思いました。

スポンサーリンク
スポンサーリンク